技術士試験問題と模範解答と解説 2021年 令和3年

化学部門模範答案
必須科目
        T-2S
選択科目 
化学プロセス  U-1-2S
U-2-1S
※問題番号末尾のSはスタンダード模範解答を表します。(無印はプレミアム模範解答)
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化学部門 必須科目  T-2
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 我が国は、地球温暖化の対策として、温室効果ガスの排出量を2030年度に2013年度比実施46%減の水準に、さらに、2050年までに実質ゼロにする目標を明らかにした。「エネルギー源を化石燃料に頼らない脱炭素社会」の実現は持続可能な社会の構築に不可欠であり、これまで石油・石炭などを原料として様々な化学製品を提供してきた化学産業は、技術革新・産業変革を推し進めることが求められている。「脱炭素社会化」を推進するには、「エネルギー源の安定確保」と「脱炭素社会化に伴うシーズ・ニーズの変化」など多様な観点から考える必要がある。化学技術者の観点から「化石燃料に頼らない脱炭素社会」への転換について以下の問いに答えよ。
(1)化学技術者の観点から、「脱炭素社会化」を推進するに当たり「エネルギー源の安定的確保」と「脱炭素社会化に伴うシーズ・     
ニーズの変化」などを多角的に分析して、3つの課題を抽出し、各々の課題を説明せよ。
(2)抽出した課題に関して要求事項と影響の重要度を考慮したうえで課題を1つ挙げ、選んだ理由とその課題に対する解決策を3つ示せ。
(3)解決策を実行した際に新たに生じうるリスクを示し、それへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。
(4)前問(1)〜(3)の業務遂行に当たり、技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から留意点を述べよ。
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答案1 専門事項:
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(1)脱炭素化を推進するための課題
 化学産業は化石資源を原料、エネルギー源として化学製品を提供し、発展してきた。今後、化石燃料に頼らない脱炭素社会への転換が不可欠である。脱炭素化社会を推進するための課題を3つ取り上げる。
1-1)環境負荷の少ないエネルギーの確保
産業部門のCO2排出量の約20%は化学産業からの排出であり、資源枯渇リスクやCO2排出量増加による地球温暖化といった環境に大きな影響を及ぼしている。よって、環境負荷の少ないエネルギーの確保が課題である。
1-2) 省エネルギーの推進
 産業設備のライフサイクルは長く、設備の入替のタイミングが限定的である。また、大型設備は初期投資が大きく、省エネ化が進んでいない。したがって、高効率機器の導入、排熱利用等を検討し、省エネルギー化の推進が課題である。
1-3)バイオマスを原料とした化学製品の開発
 化石資源を原料としたプラスチック等の汎用樹脂もその製造・廃棄過程において多量のCO2を排出している。環境負荷の少ない資源への転換が課題である。
(2)重要度を考慮した課題と解決策
 化学産業を含む産業部門はエネルギー消費量が非常に膨大であり、エネルギー消費量の削減には限界がある。低炭素化社会の推進のためには課題1-1)「環境負荷の少ないエネルギー確保」が最重要である。具体策は再生可能エネルギーを用いた電力供給である。全国に約19万か所以上ため池・調整池が点在している。また、我が国が経済的排他水域世界第6 位であり利用できる海面が多い。内陸、海洋の水上、洋上を利用した電力供給システムの開発が有望な解決策である。
2-1)内陸部の水上を利用した発電
 陸上太陽光発電は山林の活用が多く伐採、抜根が必要であり、環境負荷への影響が大きい。一方、ため池、調整池等の水上を利用した太陽光発電は、水の蒸発抑制、水草・藻の発生抑制が可能である。さらに、水上では冷却効果により夏場の発電効率が向上できる。
2-2)洋上を利用した発電
 現在、日本では、陸上風力発電が主であるが、発電に適した場所が限定的であり、いずれ限界に達する。また、騒音が大きい、景観を害する等問題がある。洋上を利用した大型の高効率の風力発電を開発して、コスト削減を図るとともに大容量電力を安定的に得る。2-3)電力供給システムの開発
 電力は需給バランスが重要である。再生可能エネルギーに過度に依存すると、電力の需給バランスが崩れるリスクがある。解決策は、電力貯蔵システムとして蓄電池の性能向上、大型化である。さらに、水素に変換した燃料電池システムも開発中である。
■講師コメント 広い視点が示されており、必須Tでは◎です。
(3)新たに生じうるリスクと対策
3-1)生態系の破壊リスク
 ため池や調整池、海洋を利用する場合は漁業や生態系への悪影響がリスクである。発電施設を浮漁礁や養殖場としての活用、閉鎖循環式陸上養殖の実施等による生態系への配慮が対策である。
3-2)燃料電池使用時の水素漏洩リスク
 鋼材中に吸収された水素原子により、強度(延性・靭性)が低下するのが水素脆性である。対策は水素感受性の小さな材料を使用するか、脱水素(ベーキング)処理を施し、水素脆性の防止が対策である。
■講師コメント 解決策のどれに由来するリスクでしょうか。水素の記述はありませんか。
(4)業務遂行のための留意点
4-1)技術者倫理の観点
 脱炭素化社会を推進するにあたり、社会や環境に与える影響を十分考慮し、人々の安全、健康などの公益を損なうことのないよう業務に取り組むことが留意点である。具体的には課題1-1)を実行するとともに、安全、能力面も評価して、トレードオフが発生する場合には安全を最優先に業務に取り組んでいく。
4-2)社会持続性の観点
 技術開発が進み、社会の仕組みが変革することが必要である。つまり、再生可能エネルギーを利用した大規模発電および大容量の電力供給システムが構築し、これらのシステムが適正な価格で運用できる社会が実現されていることである。これはSDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」に相当する。
■講師コメント 素晴らしいです。パーフェクトにご理解されていて◎です
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化学プロセス  U-1-2
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U-1-2 90[℃]、1,000[kg/h]の温水を50[℃]まで冷やしたい。20[℃]、2,000[kg/h]の冷媒(冷媒も水を使用)を用いる。向流式二重管熱交換器を使用する場合における次の設問に答えよ。なお、(1)〜(3)の計算値を導き出した計算過程も記せ。

(1)冷却に必要な除熱量[kJ/h]を計算せよ。
(2)冷媒側の出口温度[℃]を計算せよ。
(3)水を90[℃]から50[℃]まで冷やすために必要な伝熱面積[m2]を計算せよ。
(4)向流式熱交換器の使用が一般的であるが、並流式が用いられるのはどのような場合が考えられるか2つ以上記せ。
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答案1 専門事項:
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(1)冷却に必要な除熱量
 温水の流量をm[kg/h]、入出口温度をそれぞれt1[℃]、t2[℃]、比熱をcp[kJ/kg・℃]とすると、
 除熱量Q=m・cp・(t1-t2)
=1,000×4.19×(90-50)=167,600kJ/h
(2)冷媒側の出口温度
 冷媒の流量をM[kg/h]、入出口温度をそれぞれT1[℃]、T2[℃]、比熱をcp[kJ/kg・℃]とすると、
 Q=M・cp・(T2-T1)より
 T2=Q/(M・cp)+T1
  =167,600/(2,000×4.19)+20=40℃
(3)必要となる伝熱面積
 総括伝熱係数をU、対数平均温度差をΔTとする。
 ΔT=((t1-T2)-(t2-T1))/ln((t1-T2)/(t2-T1))
   =((90-40)-(50-20))/ln((90-40)/(50-20))
=39.1℃
 Q=U・A・ΔTより
 伝熱面積A=Q/(U・ΔT)
      =167,600/(500/1000×3,600×39.1)
      =2.38m2
(4)並流式熱交換器が用いられる理由
■講師コメント このような計算問題形式は少なくなっています。今後は他部門と同じ分析、考察問題に変化する可能性もありますのでご注意願います。
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化学プロセス U-2-1
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あなたは、ある化学製品生産プラントの責任者である。マーケット需要が急増し、生産プラントの能力を至急20%増強して欲しいという依頼が販売部からあった。

(1)計画段階において、調査、検討すべき事項とその内容を説明せよ。
(2)実施段階において、あなたの行う業務を説明し、留意すべき点、工夫を要する点について述べよ。
(3)関係者との調整を含め、業務を効率的かつ効果的に進めるために責任者としてあなたが実施すべき事項を3項目挙げよ。
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答案1 専門事項:化学プロセス
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(1)計画段階において調査・検討すべき事項
1-1)各機器の能力評価
 まず、能増ベースでの物質収支、熱収支を作成し、各機器の能力評価を行う。また、反応器や蒸留塔、晶析槽などは運転・組成分析データ用いて評価を実施する。反応器や晶析槽の能力が不足する場合にはどの因子にてスケールアップするか設計部門に確認しておく。
1-2)改造機器の洗い出し
1-1)の能力評価より、ボトルネックとなる機器の洗い出しを行い、改造する機器の仕様を決定する。この時単純なサイズアップだけでなく、高効率機器の導入、省エネ機器の導入可否も併せて検討しておく。
1-3)法対応
高圧ガスや消防法等の改造に関わる必要な対応について事前に確認しておく。
1-4)スケジュールの作成
 検討から工事、試運転、営業運転までの全体スケジュールを作成する。至急の対応が必要であるため、販売部を含めた関連部門と幾度か検討、調整を行い完成させる。
(2)実施段階での自身の業務と留意点・工夫点
2-1)改造箇所の決定
 1-1)、1-2)の結果を基に能増に必要な改造箇所を決定する。また、粉体を取り扱うプラントの場合は、装置のみだけではなく配管やバルブ等の材料の強度・耐摩耗性に留意が必要である。既設プラントで不具合が発生している場合には、類似の装置の材質と寿命を調査し、材質や配管サイズを決定する。
2-2)リスク評価の実施
 能増に伴う製品品質の維持、反応器や蒸留塔の能増に伴う安全性、操作性への影響に留意してリスク評価を実施する。リスクの発生が予測される場合はリスク低減策を検討する。
2-3)改造費用の算出
 機器購入費及び工事費の見積を行い、更新に伴う既設機器や配管の撤去費と合わせて改造費用を算出する。マーケット需要が急増しているので、至急の能増が必要である。よって、特に工事スケジュールの費用対効果を検証し、改造費用を算出する。
■講師コメント 実務的で提案力に富んでいて◎です。
(3) 関係者との調整事項
3-1)各部門の責任者(リーダー)の決定
 設計、調達、販売、保全、調達等の各部門の責任者(リーダー)を決め、各部門の役割を明確にしておく。
3-2)全体会議・個別会議の開催
 関係者との意識統一と作業の進捗を確認する定例会議を実施し、プロジェクト全体の動きを把握する。
3-3)支援体制を作る
 スケジュールが遅延している部門があれば、問題点・懸念事項を明確にし、遅延を解消する。 
■講師コメント 化学部門特有の配慮、提案があればなおよかったです。
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