技術士試験問題と模範解答と解説 2021年 令和3年


建設部門模範答案
必須科目 Ⅰ-1 Ⅰ-1 Ⅰ-1 Ⅰ-1 Ⅰ-1
 Ⅰ-2 Ⅰ-2 Ⅰ-2 Ⅰ-2 Ⅰ-2 Ⅰ-2 Ⅰ-2 Ⅰ-2 Ⅰ-2
Ⅰ-2S Ⅰ-2S Ⅰ-2S Ⅰ-2S Ⅰ-2S Ⅰ-2S Ⅰ-2S Ⅰ-2S Ⅰ-1S 
※問題番号末尾のSはスタンダード模範解答を表します。(無印はプレミアム模範解答)
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建設部門 必須科目Ⅰ-1
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I-1 近年,地球環境問題がより深刻化してきており,社会の持続可能性を実現するために「低炭素社会」,「循環型社会」,「自然共生社会」の構築はすべての分野で重要な課題となっている。社会資本の整備や次世代への継承を担う建設分野においても,インフラ・設備・建築物のライフサイクルの中で,廃棄物に関する問題解決に向けた取組をより一層進め,「循環型社会」を構築していくことは,地球環境問題の克服と持続可能な社会基盤整備を実現するために必要不可欠なことである。このような状況を踏まえて以下の問いに答えよ。
(1)建設分野において廃棄物に関する問題に対して循環型社会の構築を実現するために技術者としての立場で多面的な観点から3つ課題を抽出し,それぞれの観点を明記したうえで,課題の内容を示せ。
(2)前問(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ,その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)前問(2)で示したすべての解決策を実行して生じる波及効果と専門技術を踏まえた懸念事項への対応策を示せ。
(4)前問(1)〜(3) の業務遂行に当たり, 技術者としての倫理, 社会の持続可能性の観点から必要となる要件,留意点を述べよ。
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答案1/5 鋼コン 専門事項:鋼道路設計
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1.課題
(1)新技術による再生資材の品質向上
 再生資材は再利用を繰り返すことでその材料の延性や強度等の品質が低下するため、性能劣化を抑制できる添加材等を開発する。
多種多様な廃棄物が混在することで廃棄せざるを得ない混合廃棄物を削減するため、その判別精度・処理能力を向上することで、に関する技術開発を推進することで、混合廃棄物を削減する。
建設発生土はレキ質、砂質土、粘性土の混在やその含水量によりその性質は多種多様である。またその使用用途も埋立や地盤改良等幅広いため、その用途に応じた品質改良する。
(2)再生資材の受入拡大によるリサイクル推進
 建設分野以外の廃棄物を積極的に受け入れて全産業の廃棄物の無駄のない再利用を推進することが必要である。そのために、鉄の製造工程で発生する鉄鋼スラグや火力発電の燃焼で発生するフライアッシュの受入や中間処理施設を拡充する。
(3)マッチングシステム構築によるリサイクル推進
 建設資材のリサイクルの円滑化には、排出側と受入側のニーズを互いに適時適切に把握することが必要である。そのために、両者が必要な分量や時期を相互に常時閲覧できる情報交換システム構築することでリサイクルを効率化することが課題である。
2.『(1)再生資材の生産強化』の解決策
(1)添加剤や機械的工夫による品質向上
 舗装の定期的な打替えで繰返し再生される再生骨材の性状劣化を補完するため、アスファルトに増粘調整系添加剤を混入し品質を確保する。また、機械的発砲アスファルト技術を開発・導入することでアスファルト構造として品質と施工性を確保する。
(2)AI分別と品質安定化技術による混合廃棄物削減
 複合センシングやAIにより混在廃棄プラスチックを高速かつ高精度で選別が可能となるシステムを構築する。また、汚プラスチックに延性や強度の劣化を抑制するために添加するポリマーペレット成分を開発し品質劣化を補完する。
(3)建設発生土の成分改良による汎用性向上
建設発生土の物理性状(コーン指数、含水比)と再利用先の使用用途(盛土、埋め立て、裏込め)に応じて曝気や成分調整メニューを整備し適用汎用性を向上させる。例えば、吸水性泥土改質材、消石灰やポリマーの使い分けや必要な含水量、流動性、強度となるよう成分を改良するノウハウを蓄積する。
3.波及効果と新たな懸案への対応策
(1)波及効果
従事者の『低炭素社会』や『自然共生社会』の意識が向上し、グリーン事業の新たな創出や投資が促進されることで、業界のイメージアップにつながり、建設廃棄物産業の経済成長を促進する。
(2)新たな懸念
リサイクル市場が拡大し天然資材の需要が低下することで、天然資源の採掘技術や加工生産技術の向上が停滞する。また、物流の取扱量が減少することで一時保管プラントや運搬施設の需要が低下することで、一次生産分野における経済が衰退する。
(3)対応策
一次生産産業で余剰となった資産(施設や人材)をリサイクル産業分野で必要となる施設や人材をマッチングさせることで活用する。
4.必要な倫理と社会的継続性に必要な要件・留意点
 技術者倫理高めてリサイクルを推進するため、資材の搬出入、処理および地震時におけるリスクを抽出・分析・評価する際には、顧客、消費者、地域社会の健康・安全を優先し、それらの予防・管理計画を立案する。これは技術者倫理綱領の第1条公衆安全、健康、福利の最優先に相当する。
 社会持続可能性を向上し、リサイクル製品の品質向上のため、資材への有害物質混入を効率的・効果的に回避するための技術を生物化学やナノテクノロジーを活用し開発推進する。これはSDGsの9.4のクリーン技術及び環境に配慮した技術の導入拡大に相当する。
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答案2/5 鋼コン 専門事項:建設現場施工計画
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1.循環型社会の構築を実現するための課題
建設副産物の場内利用:建替え工事において、解体時に発生したコンクリート塊を破砕し、新たに建設する際に敷砂利として利用する。
不法投棄の削減:不法投棄件数の約8割が建設廃棄物である。衛星画像やLTE通信可能なICTタグを活用、処分状況を監視し不法投棄を減らす。
混合廃棄物の削減:建設現場から排出される混合廃棄物は全体の約3割である。混合廃棄物のリサイクル率は、6~7割と、他の品目(リサイクル率9割以上)と比べ低い。分別手間が負担であるため、廃棄物選別ロボットを開発する。
2.最重要課題と複数の解決策
  最重要課題:①建設副産物の場内利用
掘削土の埋戻し土への転用:基礎工事における掘削土を場内に一時堆積し、基礎工事後、埋戻し土として使用する。雨による掘削土の場外流出、風散を防止、シート養生で管理する。
吹付けコンクリートの再利用:山岳トンネル工事において、切羽の崩落防止のための吹付けコンクリートのリバウンド率は約50%である。リバウンドしたコンクリートを硬化前に回収、スラッジと骨材に分離し、再度吹付けコンクリートとして利用する。
余盛コンクリートの利用:場所打ち杭は品質確保のため、コンクリートを50~100cmの高さで余盛する。杭頭処理時に発生するコンクリート塊を50mm程度以下の大きさに破砕し、敷砂利として場内利用する。
3.波及効果、懸念事項とその対策
波及効果:資材運搬距離の削減に伴う、コストとCO2排出量(スコープ1)の削減。
懸念事項:建設副産物の場内処理と再利用による、手間の増大を起因とする品質管理不足。
対応策: 画像処理AIを活用した材料品質判定システム、処理状況管理システムの開発。
4.業務遂行に必要な倫理と社会的継続性に必要な要件・留意点
技術者倫理:回収コンクリートには、掘削土など不純物が含まれる。分離後、画像処理AIで材料選定する。これは技術士倫理要綱の公衆の利益の優先に相当する。
社会の持続可能性:吹付けコンクリートの製造量を減らすため、増粘剤含有型高性能減水剤を配合しリバウンド率を20%低減させる。SDG’sNo.12に相当する。
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答案3/5 鋼コン 専門事項:コンクリート構造設計
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1. 環型社会の構築を実現するための課題
① アスファルト塊の再生利用:針入度以外の再生可否を判断する指標が必要。改質アスファルトは低針入度でも再生材に影響がない。圧裂係数の導入の検討が急務である。
②再生骨材を安価化し利用を促進する:製造コストの削減、微粉の地盤改良への適用の促進が必要。コンクリート塊から再生骨材Hを取り出そうとすると副生産物である微粉末50%程度発生し、この処分がコストを上昇させている。
③建設混合廃棄物の再資源化率向上:ふるい下残渣をさらに精選別することでセメント原料や燃料等に再利用する。受け入れ品質をクリアできるよう比重差選別機を用い高精度に分別し、成分に硫黄が含まれないようにする。
2.再生骨材を安価化し利用を促進するため解決策
 ①安価に再生骨材を製造する:加熱すりもみ方式ではなく乾式の摩砕方式を採用することで水処理設備が不要となる。そのため初期費用および運転費用が低減でき安価化できる。
 ②輸送コストの低減と需要への対応:大規模建替え工事ではオンサイトで再生骨材プラントを設置し、解体ガラを現地で再生・利用することで輸送コストを削減する。コンクリートプラントと再生骨材プラントを隣接させることで輸送コストの削減、需要への対応を可能とする。
 ③微粉末の有効利用:再生骨材製造時に副生される微粉末は自硬性があり、表面積が大きく吸水性がある。そのため軟弱地盤の改良や含水比の高い汚泥の改質に適しており、セメントの置き換えや全量転換を行うことで再利用する。
3.波及効果と懸念事項への対応策
 波及効果:再生骨材生産時に発生する微粉末を回収し汚泥処理に使用することで、汚泥の再資源化も進めることができる。懸念事項:再生資源の品質や安全性を確保するためには廃材の情報の確認が必須となる。排出側受け入れ側共に情報伝達が煩雑になり管理コストがかかる。対応策:マニュフェストに廃材の物性等の情報を合わせて電子化することで省力化し、トレーサビリティを向上させる。
4.倫理・社会持続性
 微粉の地盤改良を行う際に混合率を変え試験練りを行い強度発現の確認を行う。要求強度によりセメントの混合等も検討し最適な配合を検討することで施工時の安全性を確保する。。公衆の利益の優先に該当する。
設計時に構造上使用可能な箇所には再生コンクリートを採用する。要求性能に応じて低グレードなものを採用することで環境負荷を低減する。これはSDGSのNO.12天然資源を持続的に管理し、効率よく使えるようにしように該当する。
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答案4/5 鋼コン 専門事項:コンクリート構造維持管理
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(1)循環型社会の構築を実現するための課題
①インフラ施設の長寿命化による更新解体時期の延長
 インフラ・設備・建築物のライフサイクルの中で、更新解体時期に、多くの廃棄物が発生するという観点から、廃棄物の発生を抑制する(リデュース)必要がある。インフラ施設の長寿命化による更新解体時期の延長により、廃棄物の発生を遅らせることで、ライフサイクル全体での廃棄物の発生総量を最小化することが可能となる。
②産業廃棄物の再使用・再利用
 各産業で発生する様々な廃棄物を再使用・再利用する(リユース・リサイクル)という観点から、廃棄物の再利用・再使用により産業廃棄物の最終処分量を削減する必要がある。例えば、石炭火力発電所で排出されるフライアッシュや、製鉄所で排出される高炉水砕スラグ等を用いた混合セメントに置き換えた低炭素型コンクリートに活用し、廃棄物の最終処分量を減らすことが挙げられる。
③インフラデータプラットフォームの構築
 各インフラ施設のデータを一元管理することで、維持管理情報を効率的に管理するという観点から、インフラデータプラットフォームの構築を推進する必要がある。これにより、各インフラ施設の補修補強に伴う廃棄物量を把握することが可能となる。
(2)最も重要と考える課題とその解決策
課題:①インフラ施設の長寿命化 
解決策①:メンテナンスサイクルの構築
 従来の劣化が顕在化してから補修を行う対症療法的な「事後保全」から、軽微な劣化のうちに補修を行い、長寿命化を図る「予防保全」に転換を図る。またアセットマネジメントによりインフラ施設の重要度に応じた優先順位を設定し、ライフサイクルコストを戦略的に平準化し、かつ最小化を図る。
解決策②:新設構造物の長寿命化
 屋内生産により安定した品質確保が可能なプレキャスト部材を活用する。プレキャスト部材は転用が可能な鋼製型枠により製作するため、現場打ちコンクリートで主に使用する木製型枠の廃棄物削減にも効果がある。
また、高強度コンクリートの使用により、長寿命化を図る。構造断面のスリム化が可能となり、コンクリート使用量を削減することができるため、最終的な解体時期での廃棄物量を削減することができる。
解決策③:インフラ分野のDX推進
 センサを用いた構造物のモニタリング技術により、変状を早期に発見することが可能となる。これにより、
甚大な劣化が起こる前に対処することができ、結果的に長寿命化が図られる。 
(3)波及効果と懸念事項への対応策
波及効果:更新解体時期の延長と維持管理業務の平準化により、必要最小限の人員で維持管理を行うことが可能となり、顕在化している少子高齢化に伴う担い手不足対策に寄与することができる。
懸念事項:インフラ施設の長寿命化、予防保全への転換により維持管理業務が軽微な補修等ばかりになるため、技術者の一部(特に若手技術者)では、不測の事態や現場特性といった高度な応用力が必要とされる場面で技術判断能力の不足が懸念される。
対策:ナレッジマネジメントとして、ウェアラブルシステムを使用した熟練技術者の行動映像を若手技術者の教育に活用することで技術継承を図る。
(4)技術者倫理、社会の持続可能性の要件、留意点
技術者倫理:公益性の高い業務遂行のために、インフラ施設の長寿命化により、公衆の安全性が向上し、公益性が確保される。(技術士倫理綱領第一条)
社会の持続可能性:少子高齢化に伴う建設分野の担い手不足が顕著になる中、社会の持続可能性を高めるため、女性技術者や外国人など多様な人材を起用するダイバーシティを推進し、人材の確保・育成を図る。加えて、建設現場の4週8休の確保や労務費見積り尊重宣言などの取組みにより、建設産業の新3K(給与が良い、休暇が取れる、希望が持てる)への転換を図る。
 これらにより、生産的な雇用及び働きがいのある仕事を実現する。(SDGsの目標8)
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答案5/5 河川砂防 専門事項:河川計画、設計
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1.風水害による被害を防止軽減するための課題
1)激甚化災害に対応した治水の高度化
地球温暖化による気候変動で風水害が激甚化、頻発かしている。激甚化災害を引き起こす気候変動に対応する観点から、気候変動を予測、変動の上限を見極め、それに応じた治水対策を実施する。
降雨強度の見直しによる堤防かさ上げ、洪水予測量を想定した豪雨発生前のダムの洪水調整容量の増加がある。
2)IOT技術による情報収集と危険対応のスピード化
 災害時に避難が遅れて被災するケースが多くある。災害時のリアル情報の不足が原因である。災害時における迅速な情報提供を行う観点から、OT技術による情報収集と危険対応のスピード化を実施する。
 災害が発生する前、災害時、災害後の各段階における防災情報をIOT技術で収集し、AIに判断を行うことで、迅速な防災情報の提供を行う。
3)地域防災力の向上による災害時の共助関係の構築
過去の災害での被災者は、単身の高齢者の割合が多い。原因は、高齢者の情報格差(デジタルデバイト)、少子高齢化による地域の防災機能低下である。
近年の少子高齢化に対応する観点から、日頃から地域の防災力を高め、災害時に助け合える体制を構築することが必要である。まるごとまちかどハザードマップやVRによる疑似被災体験などで防災意識を向上させて地域の防災力を高める。
2.「激甚化災害に対応した治水の高度化」の解決策
1)降雨強度の見直しによる堤防かさ上げ
現在は、過去の降雨から降雨強度に基づいて、流量を算定している。今後は、将来降雨の予測データを活用する。そのために、地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース(d4PDFデータ)から将来予測降雨を導き、流量を算定する。続いて、不等流計算から流量に応じた水位を算出し、堤防の計画高を決めて堤防の嵩上げを行う。
2)豪雨発生前のダムの洪水調整容量の増加
VVP(VolumeVelocityProcessing)法を利用したレーダー等による短時間降雨予測により、降雨量やダム流入量の予測精度を向上させ分布型流出モデルを用いてダムへの流入量を予測し、豪雨発生前に事前放流を行う。それにより、ダムの洪水調整容量を増加させ豪雨に備える。
3)ICTの利活用に潮位情報による水門の開閉判断
台風発生時の潮位を把握するために、ADCP(超音波のドップラー効果を応用した流速計)やCCTV等の映像を活用した画像解析でリアル情報を取得し、AIが判断して自動で水門の開閉を行う。
3.新たに生じるリスクとそれへの対策
1)堤防嵩上げによる地盤沈下の発生
下流の河川堤防は粘性土などの軟弱地盤上に設置されていることが多い。そのため激甚化災害に対応するために堤防嵩上げを行った場合、地盤沈下が発生する恐れがある。
 対策は、地盤状況に応じて地盤改良や杭などの対策工事を行うことである。
2)施設の増強による維持管理コストの上昇
 ダム嵩上げ、堤防嵩上げにより擁壁など新たなインフラが増加することで、維持管理コストが上昇するリスクがある。
 対策は、維持管理にかかるコストを減らすために、構造物にセンサーを内蔵や監視カメラの設置などして、日々の状態を遠隔監視できる体制を構築することである。
4.業務遂行要件
1)技術者倫理の観点(公共の安全)
ハード対策整備前の地域住民への説明会時に、工事中の騒音を低減のため、低騒音機械の使用、搬入経路は工事車両との接触をさけるため住宅地を避けることなど、公共の安全を第一とした施工の実施を伝える。
2)社会持続性の観点 
SDGs目標15:「陸の豊かさも守ろう」
堤防整備において、コンクリートによる画一的な堤防整備を行うのではなく、地域に由来する重要種の保全を念頭におき、多自然川づくりの考えかたを採用した計画とする。
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建設部門 必須科目Ⅰ-2
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(1)  Ⅰ-2 近年、災害が激甚化・頻発化し、特に、梅雨や台風の風水害(降雨、強風、高潮、波浪による災害)が毎年のように発生しており、全国各地の陸海域で、土木施設や住民の生活基盤に甚大な被害をもたらしている。こうした状況の下、国民の命と暮らし、経済活動を守るためには、これまで以上に新たな取組を加えた幅広い対策を行うことが急務となっている。
(2) (1)災害が、激甚化・頻発化する中で、風水害による被害を、新たな取組を加えた幅広い対策により防止又は軽減するために、技術者としての立場で多面的な観点から3つの課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ。
(3) (2)前問(1)で抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(4) (3)前問(2)で示したすべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対応策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。
(5) (4)前問(1)~(3)を業務として遂行するに当たり、技術者としての倫理、社会の持続性の観点から必要となる要件、留意点を述べよ。
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答案1/18 鋼コン 専門事項:コンクリート構造
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1.風水害の防止・軽減対策の課題
(1)流域全体の氾濫防止・軽減対策の推進
近年、内水氾濫、堤防越流などの被害が多発している。治水の観点より、流域全体の氾濫防止・軽減対策を推進する。内容としては、流域全体で流水の貯留や流下能力の向上などの対策の実施に取り組む。
(2)防災減災のためのまちづくりの促進
現状、ゼロメートル地帯などの災害リスクの高いエリアにも住宅などが多く立地している。しかし、行政による土地の移転は難易度が高い。都市計画の観点より、防災減災のためまちづくりを促進する。公共施設以外にも避難・滞在場所を指定し、計画的に整備するなどの取組みを実施する。 
(3)気候変動を踏まえた外力の設定
従来の基準は、既往の災害実績に基づいた外力で計画されている。しかし、気候変動による2℃の気温上昇を考慮すると、降雨量は約1.1倍、流量は約1.2倍に増大する。基準設定の観点より、これらを基準に反映し、気候変動を踏まえた外力の設定に転換することが課題である。
2.最重要課題の解決策
最重要課題は、「流域全体の氾濫防止・軽減対策の推進」である。
(1)利水ダムの活用
豪雨が予想された際、利水者(電力会社、農業者など)の協力のもと、利水のための貯水を事前に放流し、治水のための容量を確保する。これにより、洪水氾濫を減少させる。
(2)堤防の能力向上
堤防のかさ上げで、激甚化する高潮、洪水による流量増に対応する。また、堤防に連結ブロック張を設置し、被災しても直ちに崩壊しない粘り強い構造にする。これにより、堤防の能力を超える災害に対しても、避難時間を稼ぎ、浸水面積減少させる。能力を向上させる必要のある堤防の延長は膨大なため、本川から順次実施し、費用対効果を高める。
(3)樋門の操作性向上
樋門は豪雨の際に近づけず操作不可能となり、内水氾濫の一因となった。この問題を樋門の操作性の向上で解決する。具体的には、操作員が遠隔地からゲートの開閉を行えるよう樋門を遠隔化する。あるいは、操作員が介入せず水位差により開閉できるよう樋門を自動化する。
3.新たなリスクとその対策
(1)一極集中による災害リスクの増大
安全性の高い地域に人口、資産、企業の中枢機能が集中し、そこが被災した際の直接的、間接的被害が増大する恐れがある。
対策として、自助、共助による被害軽減を推進する。具体的には、住民のマイ・タイムラインの計画や企業のBCPの策定を実施する。これらを推進するためには、ワークショップの開催やマニュアルの作成などによる補助が必要である。
(2)決壊時のリスク増大
解決策実施により、ダム貯水量や河川流量が増大する。ダムや堤防の決壊時の被害が、解決策実施前を上回るリスクがある。
対策として、避難体制強化のためのソフト対策を推進する。リアルタイムで浸水、決壊を把握する技術開発とそれを周知する手段を充実させる。
4.業務遂行の要件、留意点
(1)技術者としての倫理
水位計や遠隔操作機器の故障などに対して、フェールセーフを追加するリスクマネジメントを実施する。この取組みにより、国民の生命と財産の安全を第一に守る。これは、技術者倫理綱領の「公衆の利益の優先」に相当する。
(2)社会持続性の観点
解決策の実施に係る人材確保・育成のため、女性や多様な人材を起用するダイバーシティに取り組む。これは、SDGsの「ジェンダー平等を実現しよう」に相当する。
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答案2/18 都市及び地方計画 専門事項:都市計画
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1風水害被害を軽減する課題・内容 
1)流域全体で水を貯め、氾濫を防ぐ課題
 気候変動の影響を受け、大雨に対応する雨水貯留機能の増強が重要である。そのため、既存施設(利水ダム等)の活用、地域状況の特性(都市公園・田んぼ等)を活用し、貯水能力の増強・河川の流下能力の確保が課題である。
2)氾濫域での課題 
 氾濫域単位でまちづくりの姿を意識共有し、浸水危険地域に住む住民の高台移転、浸水危険リスクを踏まえた住居禁止区域や建築物の耐水化地区の設定などを行う。流域が広範囲となる場合が多いことから、行政界を超えたまちづくりを具現化する開発計画の課題がある。 
3)〇〇による情報発信
 避難体制を強化するため、線状降水帯の予報、リアルタイム浸水・決壊把握の発信・DX による破堤の危険性や浸水状況のリアルタイム情報、住民が安全に避難できる避難ルートなどの確実な伝達が画題である。
2.課題1)「流域貯留、氾濫防止」の解決策
理由は、気候変動が進行に伴い、豪雨災害が増加傾向にある。氾濫が一旦発生すると、浸水被害・避難困難が生じる。氾濫を防止するため、ピーク水量の軽減が有効である。  
1) 利水(農業・発電)ダムの〇〇としての活用
既存施設を活用:台風等、豪雨被害が事前に予想される場合、事前放流を行い貯水量の増加を図り、ピーク水量の軽減を行う。そのため、洪水予報精度の向上する環境を整備する。 
 事前放流を行うための既設ダムの放流能力の増強、超過洪水時においても効率的な洪水調節を行うための遊水地の越流施設の改造・整備を行う。
2)田んぼダム・ため池の貯留施設として活用
①田んぼダムは、地域での流域治水について、堰板等でダム機能を持たせることにより、流出量の抑制効果を高め、排水量のピークカットを図る。
②ため池は、危険性や被害を想定、事前放流を通じて地域の防災・減災への意識向上を図る。 
3)遊水地を○○として整備
 都市公園、緑道や氾濫区域から移転後の未利用地等をレインガーデンとして整備する。平常時は、都市の憩いの空間や多様な生物の生息場として活用し、豪雨時は貯留機能の発揮効果による、都市の浸水の防災・減災を図る。
3.リスクと解決策
1)リスク
貯水施設の機能確保する浚渫等の維持管理を行う必要がある。施設の増加と正比例し貯水量と併せて、土砂、流木、汚泥等の堆積物が増加することから、廃棄物の処理費用・環境負荷が増加する。気候変動の影響を受け豪雨が長期間続くなど、想定を超えた場合、処理施設の能力不足も生じる。
2)解決策
:土砂、汚泥等の再利用を効率的に行うため、発生場所・種別ごとに分別収集・土壌汚染試験を行い、積極的な活用を図る。また再利用できないものについては、再資源化処理の効率化を図り、リサイクル資材として活用を行う。資源の再利用・再資源化の処理能力の効率化により、処理費用や環境負荷の軽減を図る。
4. 技術者倫理、社会の持続性の要件
1)技術者倫理
 技術者倫理を高めるため、施設整備・点検・維持管理の状況をもとに、地域の災害時のシュシュミレーション・予測結果を報告し、緊迫感を高め、地域住民の防災意識の向上を図る。これは技術者倫理綱領の公衆の安全・福利を最優先に考えるに相当する。
2)社会の持続性
 社会の持続性を高めるため、環境負荷の低減に考慮したグリーンインフラ等の新技術や建設汚泥等の資源の再利用を積極的に活用することで、自然環境の保全を図に努める。これはSDGs9・4の環境に配慮したインフラ整備に相当する。
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答案3/18 河川砂防 専門事項:河川計画
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1.風水害による被害を防止又は軽減するための課題
①河川治水機能の強化
河川堤防高の不足や河岸侵食による洪水時の越流や堤防決壊の原因になる。
そのため、洪水流量の調節、河道流下能力の確保、堤防の強化等をする必要がある。
②流域雨水貯留機能の向上
都市開発等路面舗装により雨水が地下に浸透せず直接河川に流下し、河道内の水位の上昇、洪水氾濫に至る原因となる。
そのため、都市部だけではなく、流域全体での雨水貯留機能の強化をする必要がある。 
③まちづくりの防災機能の向上
避難所の設置位置、平方キロメートル毎の設置数、避難時の避難ルートの交通混雑などにより、避難困難や避難途中で遭難する原因になる。
そのため、災害時迅速に避難できる街づくりが必要である。
2.課題「①河川の治水機能を向上する」の解決策
集水域と河川区域のみならず、氾濫域も含めて一つの流域として、地域の特性に応じ、ハード・ソフト一体で多層的に進める。
①洪水調節機能の強化
洪水時、流域内支川と本川のピーク流量が同時に合流部に到達し、合流部またはその下流側で洪水の氾濫が多発している。上流側にダムを設置し、洪水時一部の流域の流量をカットして、合流地点のピーク流量を調節する。
また、利水のための貯水容量を事前に放流し、一時的に治水のための容量を確保する。
②支川での流域対策を推進
大河川の本川の対策だけではなく、支川流域でのため池貯留、調節池等の流域対策を実施し、本川の水位低下にも寄与する。
また、本川との合流点付近では、バックウォーター対策、内水氾濫を対応する排水機場などを整備する。
③堤防強化やスーパー堤防等の設置
洪水時、堤防への浸透・侵食、また越流による堤防漏水、破堤など洪水災害が発生している。護岸、水制、堤防嵩上げ、堤脚ドレーン工等の対策により堤防を強化する。
また、河川堤防と地域街づくりを一体化として、現在の堤防の高さの30倍程度の幅をゆるやかに盛土し、どんな洪水が発生しても壊れない幅の広い堤防を設置する。盛土であるスーパー堤防を構築する際に、耐震性能の照査を検討し、事前に耐震対策等を実施する。
④降雨予測及び洪水予測システムの精度向上
レーター情報により精度高い降雨予測し、予測された降雨量から高精度の洪水予測システムにより河川水位の算出し、早期の洪水調節等対応策を検討する。
また、高精度の予測システムにより、各地点の水位情報、浸水域の情報を入手し、早期的な避難勧告や救援活動が精度高く、迅速的に展開する。
3.新たに生じうるリスクとそれへの対策
(1)リスク
出水時、支川側流域で既存ため池や調節池等を利用すると、支川側の貯留効果が高めるが、支川側流域の土砂災害のリスクも増加する。
(2)対応策
支川側の既存ため池や調節池の点検・施設健全度を評価し、必要である場合は補修・補強などにより機能向上する。また、ピーク水位後、一時貯留した水の排水を確保する。
4.業務遂行における必要要件
①技術者倫理の観点:技術者倫理を高めるするには、河川の治水機能強化を検討する際に、対象施設(堤防等)の氾濫警戒水位の明記や周辺住民への周知と避難訓練を行った。これは技術士倫理綱領の公衆の利益の優先に相当する。
②社会持続可能性の観点:社会持続可能性を高めてするには、将来地域防災のリーダーとして育成するため、地元の小中学校で施設整備後の超過降雨が発生する場合の災害発生する可能性の周知と防災訓練を行った。これはSDGsの13の目標の「気候変動に具体的な対策を」に相当する。
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答案4/18 道路 専門事項:道路設計
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1.多面的な課題
(1)予防保全
 災害時に早期に交通機能を回復させるため、光ファイバーセンサや傾斜計をのり面に設置して、常時モニタリングを実施し、早期に変状を確認する。そして、変状が確認された場合は、ICT等を活用して迅速にのり面補強を実施し、被害の最小化を図る。
(2)住民への災害情報の情報提供
豪雨時において衛星、IoT、ビッグデータ等の科学技術を活用して雨量や河川水位等のデータを自動収集し、迅速に危険予測を行う。そして、それらのデータをリアルタイムにホームページやSNS等で公表し、地域住民に早期避難を促し、逃げ遅れによる人災を防ぐ。
(3)グリーンインフラを活用した雨水流出抑制
良好な自然環境を保全・再生するために、グリーンインフラを活用する。そして、解析的に雨水が下水管に進入する時間の遅延、下水管への排出量抑制効果を確認し、雨水流出対策の計画を図る。
2.課題「予防保全」に対する対策案
(1)のり面崩壊の抑制
線状降水帯、スーパー台風、衛星リモートセンシングデータを活用して被害予測を行う。そして、のり面崩壊が生じた際に交通ネットワークが確保されるかを机上で確認する。道路閉鎖が懸念される区間は、ICT建機による高強度鋼繊維補強モルタルを用いて、格子枠の吹付けを行い、迅速にのり面補強を行う。
(2)河川における氾濫対策
 CCTVカメラ、レーダ雨量計を活用した分布型洪水予測システムにより雨量を適切・迅速に予測する。そして、樋門や水門の自動化、遠隔化を行う事で豪雨時における早期ゲートの閉鎖を可能とし、河川の氾濫を防止する。
(3)堤防やダムの維持管理
豪雨時に適切に機能が発揮できるように地中探査車両による堤防の空洞調査、光ファイバーセンサやICタグを活用した常時モニタリングによる損傷有無を早期に発見する。そして、豪雨時に損傷箇所から決壊が生じない様に内圧充填接合補強工法、炭素繊維シート工法を採用し、従来よりも迅速に施工を行う。
3.新たに生じるリスクとそれへの対策
(1)リスク 
のり面補強により恒久対策が進むと、地盤内の水圧が高くなり予期せぬ位置でのり面が損傷する危険性が高まる。また、センサーの遠隔システムが普及すると通信ケーブルへの依存度が高まる。災害時、ケーブルに想定外の外力が作用した場合、ケーブル損傷によるシステムダウンが懸念される。これにより、通信機能が低下して大事故につながる危険性が高まる。
通信技術やAIシステムの普及により、技術者の認知バイアスが働き、小さな変状を見落とし、その変状が進展して重大事故を誘発する可能性が有る。
(2)対応策
のり面の恒久対策を行うとともに、排水補強パイプや水平排水材の設置により排水機能の強化、超高圧洗浄機と特殊洗浄ノズルにより排水管内を洗浄して目詰りを防止する。
常時モニタリングを実施する際には、地理的条件を踏まえMPE(Multi Path Ethernet)を導入し、複数経路の光ファイバケーブルを接続することで災害時の通信機能を確保する。また、変状が抽出した箇所には人的資源を集約投入して診断を行い、変状の見落としを防止する。
4.技術者倫理と社会持続性
(1)技術者倫理
技術者倫理を高めて風水害被害を抑制するためには、私は被害予測やICT、新材料等を活用して社会インフラのレジリエンスを向上させ、公衆の安全性を確保する。これは、技術士倫理綱領第1項目に定められている「公衆の利益の優先」に相当する。
(2)社会持続性
社会持続性を高めるために、私はICTやAI、デジタル技術を活用して被害予測や施工の効率化を図りレジリエンスを強化し、技術革新の拡大を図る。これはSDGS17の目標である「産業と技術革新の基盤をつくろう」に該当する。
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答案5/18 鉄道 専門事項:鉄道構造物設計
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1. 風水害に対する防災・減災対策における課題
①防災施設の機能強化
近年、平成30年7月西日本豪雨のような短時間集中豪雨による土砂災害や河川氾濫を伴う人的被害が深刻化している。国民の安全と安心な暮らしを守るためには、防災施設の機能強化が必要である。
そこで、被災時に施設の倒壊までに時間を要する、レジリエンスを高めた構造にして避難時間を確保する。
②気象予測精度の向上
 地球温暖化等の気候変動に伴い、大型台風や集中豪雨による洪水予測が困難になっている。そこで、複数の気象予測結果を比較して線状降水帯の発生や停滞時間を予測する。
更に、局地モデルを従来の5kmメッシュから1km以下に高解像度化する等の気象予測精度を向上、警戒範囲限定を促進して、早期警戒発令につなげる。
③自助・公助・共助の取り組み推進
自助として住民一人一人が日頃から防災意識を高く持ち、自らの命を守るように意識する。公助・共助として行政や官民・NPOが協力して、防災教育や防災ワークショップを実施する。
本取組を通じて、自分は被災しないという正常性バイアスから、避難することが当然であるという多数派同調バイアスへ転換させて、住民の自発的な避難を促す。
2.重要と考える技術的課題及び解決策
「①防災施設の機能強化」を最も重要な課題と考え解決策を示す。
①粘り強い構造の海岸堤防
従来の堤防設計では、越流を想定していないため、陸側法面は強度不足であった。そこで、基礎マウンドの洗堀防止のための被覆材の設置、天端被覆工の補強、陸側法面の補強を実施する。
その結果、洗堀が堤防本体から遠ざかり、倒壊しにくい防災施設となり住民の避難時間を確保できる。
②法面崩壊による土砂災害対策
高速道路や鉄道などの交通インフラに付随した法面が崩壊すると、人の移動に加えて、物流にも制限がかかるため社会的・経済的に影響が大きい。
そこで、SAR干渉画像等を用いて斜面崩壊リスクが高いエリアを優先的に補強する。具体的には、抑制工として排土工や押え盛土工の実施、抑止工として杭工やアンカー工を実施する。
③河川氾濫に伴う洪水対策
AIを用いた洪水予測システムを元に、氾濫リスクの高い河川の堤防嵩上げや引堤を行い、河川断面を拡張する。
更に、万が一、本堤が決壊しても被害を最小限にとどめるために堤内地に築堤をする二線堤や、特定の区域を囲う輪中堤を設置して洪水被害を軽減する。
3.新たに生じるリスクと対応策
ハード整備の取組みの推進により、居住地の被災リスクが軽減して住民の危機意識低下から、いざ大規模災害に直面した時、自宅等の居場所にとどまり被災するリスクがある。
そこで、防災教育やワークショップなどのソフト対策の取り組みの中で、いつ、何をすべきかを各自が想定する「マイタイムライン」を作成させ、机上で避難行動の練習を実施する。
その結果、避難警報発令時に次に取るべき行動が明確になるため、即時避難行動をとることができ、被災リスクを低減出来る。
4.業務遂行のための必要要件
技術者倫理
堤防整備や法面補強を実施する時、設計時の想定外力を分かり易く住民目線で説明する。その結果、災害発生時に、どの程度の規模の災害まで防災施設が機能を維持できるかを住民が認識でき、自発的な避難行動に繋がる。これは、公衆の利益の優先に相当する。
社会持続性
堤防建設や法面補強整備を実施する時、地元産業の雇用維持と活性化のために、施工会社として地元企業を優先的に依頼・配置する。これは、若手技術者や外国人労働者の就労促進にも寄与する。本取組は、SDGs8「持続可能な経済成長」に相当する。
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答案6/18 鉄道 専門事項:鉄道構造設計
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1.災害の激甚化に備えたインフラ整理の課題
 昨今の激甚化する災害状況を踏まえ、ハード面、ソフト面から対策を講じていく必要がある。防災、減災を推進する建設技術者の立場で多面的な課題を抽出し以下に示す。
(1)激甚化する災害への整備
 近年の激甚化する災害の観点から分析すると、50mm/時の降水量の割合が30年前との比較で1.4倍まで上がっており、毎年のように風水害の被害が生じ構造物にも影響を与えている。構造物の崩壊は人命に関わるため、早急な対応が必要であるが、数量が膨大であり、対応に時間、費用を要することが課題である。
(2)構造物に老朽化
 構造物老朽化の観点を分析すると、構造物は、橋りょう、トンネル、河川管理物、港湾岸壁、下水管きょ等種類が多く、2033年には50%が供用後50年を超過する。老朽化した構造物に災害が生じた場合、どのような影響が生じるか不明な点が多く、早急な老朽化対策が必要な点が課題である。
(3)要救助者の増加
 我が国の人口を分析すると少子高齢化が進行し、65歳以上の割合が2040年には37.7%に達すると予測されている。訪日外国人も2019年には3188万人と過去最高を更新している。災害時の多種多様な救助者への情報伝達方法等が課題である。
2.最も重要な前記課題(1)と解決策
(1)最も重要な課題
今後も災害は激甚化する中、命や財産を守り、経済の発展を推進させる必要がある。よって、激甚化する災害への整備が最も重要な課題と考える。
(2)解決策
1)優先順位を決めたハード整備
 ハード整備状況を分析すると進行が遅れていることが課題である。よって、優先順位の決定を提案する。例えば、今後の災害発生予測、構造物の重要度を組み合わせて優先順位を決めるアセットマネジメントの考えを導入する工夫で、早急な対応が必要な構造物の順位付け効果があり、整備計画の簡略化を評価できる。
2)予測技術の高度化
 災害の予測技術を分析すると、精度は向上しているが、情報伝達と融合していないことが課題である。よって、ICT技術の活用を提案する。例えば、予測、情報伝達、避難勧告等を一括で実施できるシステムの構築の工夫により予測精度向上効果がある。
3)まちづくりとの連携
 公共インフラとまちづくり状況を分析すると、連携できていないことが課題である。よって、防災を意識したまちづくりとの連携を提案する。例えば、避難経路を示した看板の設置や道路舗装の着色等の工夫で防災を意識したまちづくりを評価できる。
3.新たなリスク、対策
(1)新たなリスク
 インフラ整備が進み、まちづくりとの連携を図れても住民の防災意識が低く、誤認識があると人命に関わる災害が生じる。よって、住民の理解不足が新たなリスクであると考える。
(2)対策
1)官民一体の防災
 自治体のみの防災では費用・技術面で限界があることが課題である。よって、官民一体での防災対策を提案する。例えば、計画段階から民間企業も参画する工夫で、官民一体で取り組みことができ、業務を合理的に遂行できる。
2)防災訓練
 住民の意識向上が重要である。よって、防災訓練実施を提案する。例えば小学校や地域コミュニティで実施する工夫で防止意識向上効果があり、同時にリーダー人材の育成により緊急時の早急な対応が期待できる。
4.業務遂行に必要な要件・留意点
(1)技術者としての倫理
 今後の激甚化する災害に対して、公衆の安全、健康、福祉を最優先に行動する。
(2)社会持続性の観点
 今後も災害は激甚化すると考えられている。災害被害防止を意識し、国土強靭化に貢献する所存である。
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答案7/18 トンネル 専門事項:維持管理
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(1)風水害の課題
①気象変動を踏まえた豪雨対策
地球温暖化の影響から、気象変動により雨の降り方が変化し、氾濫危険水位を超過する河川が増加している。そのため降雨量増加等を考慮した計画により、河川整備スケジュールの策定、堤防高の変更、各種排水施設のサイズアップを実施する。
②雨水貯留機能の拡大
都市化に伴う流出量増大のため、治水安全度が低下している。そのため、調整池ため池整備だけでなく、地域の協力を得て、公共施設の地下を利用した貯留施設や住宅を活用した貯留タンクの設置等により河川への流入を抑制する。
③避難環境整備 
 避難時の連絡体制が整っていない、住民の防災意識の低さのため、被害が拡大する。このため、線状降水帯等の気象予測技術の精度を向上し、情報を発信する。地方自治体では、ハザードマップの作成により避難訓練等を実施や、防災情報提供の多言語化等により、外国人等にも周知し防災意識を高める。
(2)重要課題「①気象変動、豪雨対策」の解決策
①気象変動に対する豪雨対策
集水域、河川域以外の氾濫域を含め1つの流域として捉え、気象変動による降雨量増加に対応する。そのため、水害を未然に防ぐ、堤防・遊水地整備や、河道掘削、浸食洗堀対策等を実施する。
②ICTによる水門の開閉判断
台風発生時の潮位を把握し、CCTV映像からAIを活用した自動解析等の技術と、気象情報や洪水予測システムと連携し自動で水門の開閉を行う。これにより、周辺地域や作業員の安全確保が可能である。
③都市部の貯留浸透施設整備
災害リスクの高い都市部は、都市化による保水浸透機能が低下している。そのため、公園等と一体化した遊水地整備や、既存インフラの学校グランド等の活用により豪雨時は貯留施設として活用した貯留施設を整備する。さらに貯留だけでなく、浸透機能も活用し、透水性の高いアスファルト舗装の採用、浸透桝、浸透側溝を整備する。
④法面崩壊による土砂災害対策
過去に風水害被害を受けなかった箇所について、地盤の緩み等が発生している可能性がある。そのため、SAR干渉画像等を用いて斜面崩壊リスクが高いエリアを抽出し優先的に補強する。具体的には、抑制工として排土工や押え盛土工の実施、抑止工として杭工やアンカー工を実施する。
(3)リスクと対策
①リスク
ダムや堤防新設により、過度な森林破壊が懸念され、気象変動悪化リスクが想定される。
②対策
グリーンインフラとグレーインフラの双方の特性を踏まえた対策により、自然環境悪化を低減する。具体的には、堤防と盛土の植生を一体化させた緑の防潮堤、浸透機能を持たせた植樹帯整備により、環境保全と防災対策の両立を図る。
(4)倫理、社会持続性観点    
技術者倫理を高め風水害被害を抑制するため、私は堤防整備や法面補強を設計し住民の理解しやすい内容で、設計時の想定外力等を説明する。その結果災害発生時に、どの程度の規模の災害まで防災施設が機能を維持できるかを住民が認識でき、自発的な避難行動に繋がる。これは技術者倫理綱領の第1条公衆安全、健康、福利の最優先に相当する。
社会の持続性を高めるため、既存ストックの有効活用を含め、自然のもつ保水浸透効果を有効利用し、地球温暖化を念頭に対策を検討する。SDGs13番の「気象変動に具体的な対策を」に貢献出来る。
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答案8/18 施工 専門事項:建設現場施工計画
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(1)風水害を防止、軽減する技術者としての課題
①落橋、倒壊対策 
 降雨による河川増水により橋の橋台が洗堀され倒壊する。このため、倒壊を防止するため、強靭でしなやかな構造設計をする。既設構造に対しては、基礎部にブロックや石積の洗掘防止や炭素繊維補強による橋全体を強化する。〇
②流域治水対策 
 河川の増水により住居、都市部が浸水し被害が拡大する。このため、ダムや河川の流下能力を向上させ河川の氾濫を防止し、高台をつくり被害を低減する。それを早期に復旧、復興させる総合的な治水対策を実施し国民の安全を確保する。〇
③避難環境整備 
 避難時の連絡体制が整っていないため被害が拡大する。このため、線状降水帯の予測技術の精度を向上し情報を発信する。地方自治体では、ハザードマップの作成により避難訓練を実施し防災意識を高める。被災後は、ドローンにより広範囲のデータを遠隔地から情報収集し対策を検討する。被災地では、AIやICT技術による自動制御機械の活用を実施し救助者の安全を確保する。〇
(2)最も重要と考える課題と解決策
②流域治水対策の解決策
(a)ダム機能向上
従来のダム嵩上げ、放流口の改善によりダム貯留量を増加させる。加えて、想定外の降雨に対して、線状降水帯の予測技術の向上を図り、事前放流によるダム容量を確保する。事前放流の実施判断は3日前から行い、気象庁の全球モデル(GSM)による数値予報に基づく時間累積雨量を予測降雨量として用いる。
(b)河川洪水抑制対策
河川では、堤防内部に光ファイバー等のセンサーを設置し堤防内部の変形等を監視することや、監視カメラの設置することで氾濫予測をする。氾濫した場合は、人工衛星やヘリコプターにGPSセンサーを搭載し、リアルタイムで浸水エリアを把握する。この情報を一般公開し早期避難を促すことで被害を軽減する。
(c) 被害を最小化する都市計画  
災害ハザードエリアにおける開発抑制、移転の促進し立地適正化を図る。低平地では、洪水による越水に耐える高規格堤防を造成する。高規格堤防は、通常の堤防より堤防幅を広く盛土し、そこに住居施設を設け洪水発生時に避難地としても利用する。
洪水時には、遊水地、緑地公園を一時的な貯留施設として利用することや浸透ます、透水性舗装を行い自然に浸透させることで都市機能の早期回復を図り被害を最小化する防災、減災を含めた総合的な都市計画を推進する。
(3)新たに生じうるリスクと解決策
リスク:河川改変工事に伴い断面変更した結果、平常時の中洲の固定化により河床に大量の土砂が堆積する。そこに樹林化や河床の局所洗掘が発生し護岸や橋梁など河川内の構造物の安定性が低下し洪水時に災害を誘発するリスクが稀にある。
対策:川幅を拡幅する際は、河床を平坦にせず、従前の河川環境を意識してみお筋を形成する。
堆積土砂の浚渫や樹林伐採等の維持管理を実施する際には、中洲の切下げや水路を設けるなど中州の攪乱と主流部の流量を緩和することで、河川環境に配慮し洗掘を防止する。
(4)必要な要件
技術者倫理も高めて業務を遂行するには、施工後の想定外の事象に対して安全性を十分検討したうえで、設計仕様の決定、使用材料を採用する。これは、技術者倫理綱領の公衆の安全、健康及び福利を最優先に相当する。
社会持続性も高めて業務を遂行するには、緑地による木陰による温度上昇抑制や道路の保水化を図りヒートアイランド現象を抑制し気候変動を緩和することで災害リスク低減する。これは、SDGsの№11住続けられるまちづくり「11.b」に相当する。
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答案9/18 河川砂防 専門事項:河川計画
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1.激風水害を防止・軽減するための課題
(1)事前整備の観点より、横断的な連携した取り組みの課題
 我が国は全国土の約7割が山地・丘陵地を占めており、災害が起こりやすい国土条件であり、地球温暖化の影響の気候変動により降水量が増加し、風水害が激甚化している。現状は多様な分野でシステムの構築を個別最適化して進めているが、個別最適化では拡張性に乏しいため、横断的な取り組みを行う必要がある。よって、防災・減災の共通目的で、各分野で整備を進めるべき。
(2)国民意識の観点より、防災意識社会への転換の課題
 災害発生時の支援は、プッシュ型やプル型などの公助だけでは限界があることから、普段からの自助・互助・共助の意識を高めることが重要である。また、高齢単身世帯の増加によりコミュニティ機能が低下しているため、防災意識社会への転換が課題である。よって、国民の視点に立った対策により継続的に防災警戒体制を構築すべき。
(3)情報提供の観点より、わかりやすい情報発信の課題
 リスクエリア面積に対し、全人口の約7割が災害リスクの高いエリアに居住しており、ハザードマップの公表や大雨特別警報を発信しているが、具体的な非難に繋がっていないのが現状である。よって、危機管理型水位計や監視カメラなど、可視化された情報を積極的に提供し、具体的な避難に繋げるべき。
2.最も重要と考える課題に対する解決策
 激甚化・頻発化する災害に対応するため、全体最適化した横断的な連携による整備を進めることが最も重要な課題と考え、以下に解決策を述べる。
(1)流域治水の転換
 砂防、河川、下水道、海岸の管理者がそれぞれ整備を個別最適化していることから、集水域、河川区域、氾濫区域を一元化し一つの流域として連携して取り組む流域治水への転換が解決策である。具体的には、集水域では自然環境の特性を利用したグリーンインフラを活用し、雨水の貯留、浸透を促進する。河川区域では、利水ダムの事前放流による貯留量の確保である。氾濫区域では、ため池や田んぼの高度利用や宅地のかさ上げ、災害リスクの高いエリアから低いエリアへの住居の誘導、土地利用制限である。
(2)ストック効果の最大化
 高度経済成長期に中注して整備されたインフラが加速度的に老朽化していることから、インフラ長寿命化計画によるインフラメンテナンスを行い、ストック効果の最大化を図ることが解決策である。メンテナンスに当たっては、ライフサイクルコスト縮減を意識することが重要であり、事後保全から予防保全への転換や、BIM/CIMを活用した生産性向上を図る必要がある。
(3)道路インフラの強化
 道路インフラは、災害時の救命救急や早期の復旧、支援物資の輸送に重要であることから、道路交通のネットワークの強化やミッシングリンクの解消が解決策である。また、暫定2車線の高速道路区間の4車線化や踏切道の立体交差化を進めることで強靭化が図れる。
3.新たに生じうるリスクと対応策
 上記の解決策を実行しても新たに生じうるリスクは、継続的な予算の確保の問題である。対応策は、3次元データをデータベース化し、システムをプラットフォーム化することで、AI・IoTを活用した評価により高度予測が可能となることから、予算配分の選択と集中を行うことである。
4.業務として遂行するに当たり必要となる要件・留意点
 技術者は一企業の利益のみを追求するのではなく、社会全体の公益確保を第一に考え、エンドユーザーの安心・安全を守る。また、インフラ整備に当たっては、地形改変等の環境負荷が発生する懸念があることから、自然環境、地域環境、生活環境にも配慮する必要がある。
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答案10/18 鋼コン  S
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1.多面的な課題の抽出と分析
①多重防御による事前防災(観点:被害の最小化)
 近年、大規模な自然災害による被害が各地で連続的に発生しており、国民の生活に大きな影響を与えている。また、長期間にわたる復旧・復興に伴い、多大な労力や資金を費やしており、財政的に厳しい状況である。
■講師コメント 問題文と同じ内容の繰り返しが長いようです。肝心の多重防御の課題やその理由を力説された方が高得点を期待できます。
そのため、被害の最小化を目的とした、多重防御による事前防災を進めていくことが課題である。
②避難の円滑化・迅速化(観点:災害弱者の対応)
 突発的な降雨や強風による災害が多発しており、高齢者などの災害弱者が逃げ遅れによる被害が発生している状況がある。
そのため、災害状況情報や共助体制を強化し、避難を円滑化・迅速化していくことが課題である。
③インフラ構造物の集約化(観点:地域社会の維持)
厳しい財政状況の中、大都市一極集中が進み、拡散している地域社会の活力は低下している。
限られた予算や労力では、社会資本の整備を兼ねつつ、災害対策を持続的に行っていくことは限界である。
そのため、地域社会の維持を目的とした、インフラ構造物の集約化を図っていくことが課題である。
2.重要課題「多重防御による事前防災」の解決策
①河川の断面拡大・氾濫危険度の監視
 突発的な集中豪雨により河川の水位が急激に上昇し、住民の避難時間に影響が生じている。
そのため、河道掘削や築堤・嵩上げにより、河川断面を拡大しリードタイムを確保する。
また、河川に危機管理型水位計や無人化流量観測機を設置し、きめ細やかな状態監視を可能にし、住民の初動対応を迅速化する。
②国土交通プラットフォームの構築
 近年は水災害、風災害、土砂災害の単体ではなく、複合的な要因による災害が多発している。
そのため、国土の情報をサイバー空間で再現し、そこに自然現象によるシミュレーションを実施する。それを基にフィジカル空間で各対策を実施する。これにより、最適な防災対策を検討できる。
③道路ネットワークの確保・電気自動車の活用
 災害時には迅速な人命救助や被災地への支援物資輸送を行えるような対策が必要である。
そのため、暫定2車線の4車線化や無電柱化を進め、災害時の道路ネットワークを構築し、リダンダンシーを確保する。また、給電機能を保有する電動車を移動式電源として用いることで、電気設備の復旧が間に合わない際に応急的な対応ができる。
3.解決策に共通するリスクと対策
①リスク:防災意識の低下
整備されたハード・ソフトによる事前防災対策への信頼性が高まるほど、住民の危機管理などの防災意識は低下する恐れがあり、二次災害などによる被害が発生する可能性がある。
②対策:効果的な防災活動の実施
防災活動時には複合災害や二次災害をCGにより再現し、それを基に災害時のマイ・タイムラインを作成させ、防災意識を確実に定着させる。さらに緊急速報メールなどによるプッシュ型配信を実施し、住民の初動対応の迅速化を図る。
4.業務を遂行することに伴う要件
①技術者倫理
予算や工期の制限がある中、防災対策箇所は大量に存在するが、決して計算データの偽装や施工不良があってはならない。コンプライアンスを遵守し、地形特性や構造物の重要度に応じた優先順位を検討し、公衆の安全を第一に考えていくことが求められる。
■講師コメント 偽装や不良はあってはもちろんいけません。技術者倫理の目標として悪すぎませんか。技術者倫理とはそのようなことを防ぐためにあるのではありません。もっと厳しい倫理観が求められています。
②社会持続可能性
自然環境の保護を考慮し、生物多様性の保全や地球温暖化防止を念頭に置いた、グリーンインフラ計画を策定する。具体策として、河川堤防における在来種を用いた緑化などが考えられる。
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答案11/18 都市及び地方計画   S
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1.風水害を防止又は軽減するための課題
 近年、気候変動に伴う降雨量の増加や海水面の上昇により、風水害が激甚化・頻発化しており、集水域・河川区域・氾濫域を一体的に捉える「流域治水」への転換が求められる。水災害リスクは、ハザードとその発生確率、暴露、脆弱性の3つの因子によって評価され、これらを観点とした課題を次に示す。
1.1 ハザード防止の観点:氾濫を防ぐ
■講師コメント 観点とはこのようなキーワードではなく建設、または都市及び地方計画の手法や概念と考えた方が良いでしょう。そのような専門的視点が求められています。
 水災害そのものを発生させないために、堤防の強化、河床掘削、ダム等の整備、雨水浸透貯留施設の整備、田んぼやため池の保全等が必要である。ただし、近年の災害の不確実性の増大を考慮すると、インフラ整備のみでの対策には限界があると考えられる。
■講師コメント ではどうすべきなのか具体的な方針まで示された方が良いでしょう。
1.2 暴露防止の観点:被害対象を減少させる
 水災害が発生しても、被害を受ける範囲を減らすために、土地利用の規制・誘導や高台等への移転、二線堤の整備などが必要と考えられる。ただし、地域との丁寧な合意形成が求められ、効果発現までに相応の期間を要すると考えられる。
1.3 脆弱性防止の観点:被害軽減と早期復旧に備える
 水災害が発生し、被害が生じた場合も、被害内容を軽減したり、早期の復旧・復興を進めるために、建築構造の工夫、地域の避難態勢の強化、BCP等の普及促進が必要である。個別敷地レベルの対策やソフト対策が主となり、迅速な減災効果が期待できる。
2.最も重要と考える課題とその解決策
 1で挙げた課題のうち、最も重要な課題は、迅速に効果発現できる「1.3 脆弱性防止の観点:被害軽減と早期復旧に備える」と考える。その解決策を次に示す。
2.1 建築構造の工夫
 建築物の嵩上げや高床化、ピロティ化、止水板の設置、電気設備の高所設置等により、浸水被害の軽減が見込める。また、想定浸水深以下の部材を交換が容易な設えとすることで、復旧の容易化が期待できる。既存の建築物については、耐震性能・省エネ性能・バリアフリー性能の向上と併せて浸水対策を実施することで、費用負担を抑制できると考えられる。
2.2 地域の避難態勢の強化
 公的避難所以外の公共施設やゆとり空間、民間空地等を活用することで、地域の多様な避難環境を確保し、安全性の向上と感染症のリスク低減が期待できる。
また、マイ・タイムライン作成を普及促進することで、住民の計画的な早期避難を促し、避難の実効性を高めることが重要である。
2.3 復旧・復興の事前対策
 地域企業等へのBCPの策定と継続的な見直しを促進することで、地域経済の影響や公的負担の軽減が期待できる。また、行政と企業が、防災活動スペースや資機材、備蓄物資等の提供について地域防災協定を締結することも有効と考えられる。
3.新たに生じうるリスクとその対応策
 2で挙げたすべての解決策を実行した場合に、地域住民の危機意識や認識の不足により、多様な避難環境等が十分に活用されず、減災効果を発揮できないリスクが考えられる。
 この対応策として、情報共有手段を複層的に活用し、住民の危機意識や認識を醸成することが有効と考える。その具体策を次に示す。
・従来の行政広報誌やホームページの活用
・地域やコミュニティを単位とした公聴会の開催
・まちなかなど人通りの多い場所でのオープンハウス
・子育て世代等向けのワークショップの開催
・フェイスブックやインスタグラム等のSNSの活用
4.業務遂行に当たり必要となる要件・留意点
4.1 技術者としての倫理の観点
 風水害対策事業には、予算や工期等の制約が生じる。しかし、技術者倫理の観点から、公共の安全を最優先に考え、これよりも予算や工期等を優先することをせず、適正に判断・分析し、業務を誠実に履行する。
■講師コメント 具体的に自身の場合はどうするかの提案まですると良いでしょう。
4.2 社会の持続性の観点
 社会の持続性の観点からは、環境の保全を重視し、企画・設計・施工・維持管理に至るまで、トータルの温室効果ガスの排出量削減や、地域の生物多様性や水環境の保全、地域景観との調和などに留意して業務を遂行する。
■講師コメント 社会の持続性の概念がややあいまいです。SDGsについてのお考えを明確に示すと良いでしょう。
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答案12/18 都市及び地方計画   S
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1.風水害の被害にかかる防止・軽減対策の課題
1.1 都市型水害の被害の観点
近年、気候変動により風水害が頻発化・激甚化する中、堤防等治水ハード施設のみでは防ぎきれないため、ハードソフトベストミックスが推進されるが、市街地が拡散すると、それを守る堤防等が膨大となり整備が長期化し、避難距離が長くなり逃げ遅れる。このため、コンパクトシティと連携した防災・減災より、守るべきエリアを集約し、高密度な生活のもと、避難場所への道程を短くし避難も迅速にできるようにする。
1.2 土砂災害の被害の観点
中山間地域等では、農林産業の衰退や過疎化等に伴い里地里山が荒廃すると、森林等の保水機能が低下し、土砂災害や風倒木災害が甚大化していく。このため、暮らしと農林業の維持により、荒廃する里地里山の再生が必要である。砂防や道路等の整備では、グリーンツーリズム・グランピングの推進や大区画化・汎用化整備と六次化を含む農村活性化、混交林化・長伐期施業への転換、スマート林業化等に配慮して進める。
1.3 インフラ施設の被害の観点
インフラ施設が被災した場合、国民生活や社会経済活動への影響が大きい。道路・交通施設は通行不能になると、避難や移動・輸送の遮断や迂回路を強いる。また、電力施設はブラックアウトなど大規模停電が生じるリスクがある。このため、冗長性が高く被災後も早期復旧が可能な災害に強いインフラ施設が必要である。道路は耐災害性や代替輸送・路線など冗長性を強化する。電力施設は、都市コンパクト化で再生可能エネルギー電力源を多数確保し、スマートグリッドで需要側と最適接続して仮想発電所を形成し、独立分散型電源を確保して冗長性を高めて停電を防止・抑制する。
■講師コメント 内容はとても結構ですが、記述が冗長です。課題はいずれも問題点+課題の構成となっており問題点を簡潔にすると良いでしょう。
2.最重要課題1.1についての解決策
2.1 コンパクトシティと連携した防災・減災
(1) 災害リスクが低い地域への立地誘導
コンパクトシティとの連携にあたり、災害リスクが高いエリアを含めると被災リスクが低減しない。そこで、災害リスクが低い地域への立地誘導を行う。具体的には、立地適正化計画を踏まえ、災害ハザードエリアを区分・指定する。災害レッドゾーンは、立地適正化計画の居住誘導区域から原則除外とし、開発の原則禁止、開発等に対する勧告や公表、移転の促進を図る。イエローゾーンは開発許可を厳格化する。
(2) 災害時要援護者への避難誘導対策
高齢者等災害時要援護者は、自足歩行等が難しく、避難距離が短くても迅速な避難が難しいなど自助に限界がある。そこで、共助と公助を組み合わせた避難誘導を行う。具体的には、共助は、地域で自主防災組織を編成し、早期避難体制をつくる。公助は、行政で各地域の自主防災組織を束ねて、講習や情報交換、訓練の場などを提供して組織維持を支援する。
■講師コメント 解決策は他にはありませんか。都市型水害対策を目指したものとすべきですが、コンパクトシティ+避難だけでは積極的な「水害」対策がなく、題意に応えられてたかやや心配です。
3.解決策に共通した新たなリスクと対策
3.1 防災情報高度化・避難誘導の最適化
様々な分野の各データが分野限定で横断的に活用できないと、災害リスクに適合しない災害エリア指定や施設配置となったり、空振りが多くてピンポイントにもならない避難誘導情報になるリスクがある。
■講師コメント 「データを横断的に活用しない」という担当者の不手際に由来する問題であって、問2の解決策にはそのような想定はありません。ここは新規のリスク想定ではなく、提案内容に由来して発生する事項を吟味された方が良いでしょう。
対策は、IoT、AI等の新技術とビッグデータを活用して、データプラットホームを構築し、スマートシティを実現させる。例えば、医療・介護施設等について、インフラデータプラットフォームに人や車の流れ、気象災害情報等の情報を重ねて AI等でビッグデータ解析(国土交通データプラットフォーム)し、最適な施設の規模・配置、避難ルート選定等を計画する。
4.業務遂行上の必要要件(技術者倫理、社会持続性)
・技術者の倫理は、防災インフラの河川堤防等が膨大にあり予算制限や工期厳守等でも、公衆安全を第一に、コスト追求のあまりデータ偽造の不正、手抜き工事などの反倫理行為を行わないよう、倫理教育の一層の充実や反倫理的行為を許さない仕組みづくりを進める。
■講師コメント 「手抜き工事」は悪すぎて技術者倫理以前のことです。ここはもう少し微妙な問題を挙げた方が良いでしょう。
そして要件とは「私が工夫して、技術者倫理を高めるため○○する」という行為です。
・社会の持続可能性は、可能な限り、環境負荷を最小化する必要がある。防潮林などのグリーンインフラを積極的に活用する等、景観や生物多様性に配慮して計画する。
■講師コメント これは業務そのものであって、特定の業務に限定することはできません。要件とは「私が工夫して、SDGsを高めるために○○する」という行為です。
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答案13/18 道路   S
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1.激甚化する風水害の被害を防止するための課題
(1)国民の防災意識を高める
気候変動の影響により、1時間に50mm以上の短時間強雨の発生回数は、30年前と比べて1.4倍増加しており、土砂災害や洪水等の被害が毎年のように全国各地で発生している。このため、様々な関係機関が連携、協働して、防災・減災対策を講じていく必要がある。
したがって、危機意識共有の観点から、国民の防災意識を高めていくことが課題である。
■講師コメント 国民がどうあるべきかの心構えではなく、建設部門エンジニアとして、具体的に建設技術を応用してどのように防災対策を講じていくかの提案をされた方が良いでしょう。
(2)AIやロボット技術等の活用
人口が減少している中で、建設業を担う技術系職員も減少しているが、それに反比例して災害は激甚化・頻発化している。限られた人員で効率的に作業を行うためには、デジタル化を推進する必要がある。災害時にAI技術による浸水範囲の自動解析や身体的負担を軽減できるパワーアシストスーツの着用、ドローンの活用で被災状況を把握できるようになる。
したがって、技術者不足の観点から、AIやロボット技術等を活用することが課題である。
■講師コメント AI技術は将来性はともかく、実現している分野まだごくわずかにすぎません。実現性の高い提案をされた方が良いでしょう。
(3)想定を上回る災害への対応
我が国の国土は山地や丘陵地が多く、また河川も急勾配なため、近年の気候変動の影響もあり、土砂災害や洪水等の災害が発生しやすい状況である。また、今後もこれらの自然災害が頻繁に発生することが予測されているため、早期に対策を実施する必要がある。
したがって、制度面や技術面の観点から、想定を上回る災害に対応することが課題である。
■講師コメント 「想定を超える災害」とは問題文の前提にも含まれています。出題者が求める前提事項ですから課題には相当しません。こうした被害者が求める問題の背景を深く捉えることが正解を確実にするためには欠かせません。
2.解決策
上記課題のうち最も重要と考える課題は、「(3)
想定を上回る災害への対応」である。なぜなら、災害から人々の生命・財産を守り、安全な生活環境を整備する必要があるからである。以下にその解決策を示す。
(1)流域治水対策の実施
想定を上回る災害へ対応するためには、流域治水対策を実施することが解決策の一つである。なぜなら、多様な主体と連携し、ハード・ソフトの両面から対策することで、効果を発揮するからである。
具体的には、雨水貯留施設の設置、利水ダムの事前放流、ダム・遊水地の整備、堤防補強等である。
■講師コメント いずれも従来から行われている対策そのもののように思われます。「これまで以上に、新たな取組を加えた幅広い対策」とはいわゆるresilience対応に相当するかと思います。新たな防災対応の取り組みから提案すべき技術を読み取ってください。
https://www.nied-sip2.bosai.go.jp/

(2)強靭な道路ネットワークの構築
想定を上回る災害へ対応するためには、強靭な道路ネットワークを構築することが解決策の一つである。なぜなら、災害時に救助活動や物資の輸送等を途切れさせてはいけないからである。
具体的には、高規格道路のミッシングリンクの解消や4車線化の整備、高規格道と主要国道とのダブルネットワークによる機能強化対策等である。
(3)ライフラインとなるインフラの強化
想定を上回る災害へ対応するためには、ライフラインとなるインフラを強化することが解決策の一つである。なぜなら、防災拠点となる道の駅等の施設が、被災者等を受け入れる必要があるからである。
具体的には、下水道管路、下水処理場の耐震補強や地下鉄駅の電源施設の浸水対策等である。
3.解決策を実行しても新たに生じうるリスクと対策
上記解決策を実行しても新たに生じうるリスクは、ノウハウ不足である。なぜなら、多様な主体が多く、新技術の活用等、情報を一元的に集約する必要があるからである。
■講師コメント ノウハウ不足とは問題となる要因の1つに過ぎず、これがこれ自体がリスクとは思えません。リストは経済的に大きなマイナス効果を生む、発生頻度の小さい現象とお考え下さい。

上記リスクの対策として、インフラメンテナンス国民会議を活用することである。なぜなら、多様な主体と連携でき、産学官民が持つAI技術による画像診断や衛星データを活用した自動運転技術等の新技術を利用でき、効果的に事業の進捗が図れるからである。
4.業務として遂行するに当たり必要な要件・留意点
①技術者倫理の観点
人々が安全・安心して生活するためにも、強靭な国土を作り、適切な施工、維持管理に努めていくことが重要であり、公益を最優先として取り組み、公共の安全を確保していく必要がある。
■講師コメント これは技術者倫理の原則の心構えを描いたものだと思います。ここで求められる要件とは、問2で提案された「流域治水や強靭なネットワーク」を作るにあたって、技術士にふさわしく技術者倫理も高めて行うためにはあなたは何を行ないますかという意味です。

②社会の持続可能性の観点
人々の暮らしを支えるためには、道路等のインフラの管理が欠かせない。新技術を活用する等効率的に管理し、将来世代へ適切に引き継ぎ、環境保全を図りつつ、持続可能な社会を構築していく必要がある。
■講師コメント こちらも心構えを表した内容となっています。技術士にSDGsが求められています。
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答案14/18 鉄道   S
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1.風水害の被害を防止・軽減するための課題と内容
(1)想定を超える災害への対応
 わが国での集中豪雨の約6割で、バックビルディング現象などによる線状降水帯が発生していた。地球温暖化の影響で、数十年に1度の大雨が毎年のように発生しており、甚大な被害が発生している。防災の観点から、人命や暮らしを守るため、想定を超える災害に対応することが課題である。
■講師コメント 1~3の課題は一応合格点ですが、いずれも厳密には課題ではなく問題点を挙げられています。現況からわかることだけでなく、技術士の視点で建設・鉄道の観点から解決方針まで示した方がコンピテンシーが感じられて高得点が期待できます。
(2)複合災害への対応
2つ以上の災害が発生すると、さらに被害が深刻となり、復旧が長期化する。地震、台風、豪雨、土砂崩壊、洪水、浸水、避難所での感染症拡大などの同時または連鎖しての発生が懸念される。二次災害の観点から、被害を深刻化させないため、複合災害に対応することが課題である。
(3)省力化の推進
わが国の総人口は2065年には約8800万人にまで減少する。生産年齢人口は約4500万人まで減少すると予測されている。高度経済成長期以降に整備したインフラが今後一斉に老朽化する。災害の防災・減災・復旧活動にはマンパワーが必要である。人材の観点から、限られた技術者での対応が求められるため、省力化を推進することが課題である。
2.課題「想定を超える災害への対応」への解決策
(1)ハード対策の実施
①事前防災ハード対策:法面の防護や堤防の嵩上げなどインフラを整備・強化し、防災対策をすることで被害を未然に防止する。
②避難確保ハード対策:避難場所の整備やインフラを粘り強い構造にし、減災対策をすることで人的・社会経済被害を軽減する。
■講師コメント やや趣旨があいまいです。建設・鉄道の視点を示された方が高得点を期待できます。
(2)ソフト対策の実施
国土強靭化を推進し、ハード対策とソフト対策を組み合わせた多重防御により被害を最小にする。
①ハザードマップの整備:各種ハザードマップを検索・閲覧できるハザードマップポータルサイトを拡充し、迅速な避難をすることで被害を軽減する。
②マイタイムラインの作成:マイタイムラインを周知し、作成を促進させ、国、企業などと連携して対応することで、被害を軽減する。
(3)効率的なインフラ整備
①DXの推進:モニタリング技術やロボットなどICT技術の活用を推進し、インフラの防災・減災対策を効率的に行う。
②NETISの活用:民間などの技術を一般に共有することで、新技術の活用を推進する。
■講師コメント 新しい提案の視点がここで示されたようで〇です。
3.共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策
(1)被害発生のリスク
 防災機能は充実するが、災害を完全に防ぐことは困難なため、被害が発生するリスクが生じる。
■講師コメント 残念ながらこれでは真のリスクが何かわかりません。なぜ被害が発生するのか、どんな被害かまで特定された方が良いでしょう。
整備前または対策済み箇所での対策以上の災害の発生が懸念される。被害が生じると迅速にインフラの機能を復旧し、輸送手段を確保する必要がある。
(2)被害発生への対応策
①リダンダンシーの確保
ミッシングリンクを解消するため、暫定2車線の4車線化や鉄道とバス事業者などの協力体制の構築などをすることで、輸送手段が途絶えないようにする。
②「選択と集中」の徹底
 インフラの役割や目的を踏まえて、優先度と時間軸を考慮して、思い切った選択と集中を実施し、ストック効果を最大化させる。
■講師コメント 対策の視点の広さは◎です。
4.業務上必要となる要件
(1)技術者倫理の観点
 風水害対策にあたり、公益の確保を最優先に考慮するよう留意する。常に専門技術の力量や知識を高めるとともに、将来世代を担う人材の育成に努める。
(2)社会の持続可能性の観点
 データプラットフォームを構築し、インフラのストック効果の最大化と持続性を保つ技術開発方策を選定・採用するよう留意する。SDGsを達成することが持続可能な社会インフラの整備につながる。以上 
■講師コメント 技術者倫理、社会持続可能性は◎です。良くお考えになりました。
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答案15/18 鉄道   S
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1.課題
①流域治水の推進
 従来の治水対策は河川域等の区域毎による治水対策が行われてきた。しかし、気候変動の影響により想定を超える風水害が発生している。そこで、対策区域の観点から、区域毎の治水対策ではなく、新たな取組みとして流域全体を一つの対策範囲とした流域治水の推進が風水害の被害防止・軽減に向けた課題である。
②ハザードマップの理解・認知度向上
 地方自治体においては風水害のリスクを示すハザードマップの整備を進めてきた。ハザードマップの整備は多くの自治体で完了している一方で、同マップに対する住民の理解・認知度は必ずしも高くない。そこで、住民の観点から、新たな取組みとしてハザードマップの理解・認知度向上が風水害の被害防止・軽減に向けた課題である。
③予防保全への転換
 防災インフラを含め、従来のインフラ保全は不具合が生じた際に修繕を施す事後保全が主流であった。しかし防災インフラにおいては平時から機能を保持することが非常に重要である。そこで、保全の観点から、新しい取組みとして、従来の事後保全から不具合が生じる前に修繕を実施する予防保全への転換を図ることが、風水害の被害防止・軽減に向けた課題である。
■講師コメント 予防保全は防災に限らず、すべてのインフラに共通した事項で、必然的な関係性があいまいです。防災インフラが特別メンテを必要としているわけでもありません。ここはできるだけ、予防保全など主題から離れた提案は避けた方が得策です。

2.解決策
 前頁の課題のうち①流域治水の推進を最も重要な課題とし、以下に解決策を示す。
① 気候変動を踏まえた治水計画の策定
 従来の治水計画は過去の降雨実績を基準に策定されてきた。しかし、気候変動の影響により想定を超える被害が発生しているため、今後は気候変動の影響を踏まえた降雨量、河川流量、浸水深さ及び潮位等を考慮した治水計画を策定し、治水対策を流域全体で実施する。
■講師コメント 課題とやや似ています。課題には「気候変動の影響・・流域全体を一つの対策範囲とした流域治水の推進が風水害の被害防止・軽減」とありほぼ同じです。ここはもっと具体的に気象予測や水理工学の提案をされた方が良いでしょう。
②雨水貯留機能の向上
 集水域においては、これまでもダム等により雨水貯留を行い河川流量の抑制を行ってきた。しかし、既存の貯水能力を超えた大雨の際には河川流量を抑制が困難である。そこで新たに溜池や水田を活用し、集水域における雨水貯留の応力の向上を実施する。
③粘り強い構造の堤防整備
 河川域では、これまで河川の流下能力向上のために河道掘削、引堤及び堤防の嵩上げ等が行われてきた。しかし、一部堤防では越水時に即座に決壊する恐れがある。そこで、今後の堤防整備においては、新たに越水時においても即座位に決壊しないよう法尻部や陸側法面を補強した粘り強い構造の堤防を整備する。
④土地利用規制による住居等の移転
 現状、風水害のリスクが高い一部地域においては、住居等が建設されている。各種防災対策を実施しているが、今後も想定を超える風水害が発生する可能性がある。そこで、風水害のリスクが高い危険危険区域においては、土地利用の規制を行い、新たな街づくりと合わせて住居等の移転を実施していく。

3.新たなリスクと対応策
①リソース不足による運営への悪影響
 各解決策を実行する際は、多くの人的・財政的・時間的リソースが必要となる。リソースの少ない地方自治体では行政運営に悪影響を及ぼすリスクがある。
■講師コメント これは提案内容が原因で生じることではなく、何の施策でも言えることです。問題文が求めているのは「前問(2)で示した解決策との因果関係によって生じるリスク」です。
②リスクマネジメントの導入
 上記リスクを回避するため、災害の発生頻度、発生時の深刻度、対策の効果及び費用などを考慮したリスクマネジメントを導入し、上記リスクを回避する。
4.要件
①公衆の安全確保
 本業務は限られた予算及び工期の中で遂行しなければならない。しかし、そのような状況下においても常に公衆の安全確保を最優先することが、本業務のける技術者倫理の観点における要件である。
■講師コメント 質問の趣旨を誤解されています。技術者倫理の基本原理ではなくご提案の「治水計画、雨水貯留、補強、土地利用規制」で具体的に何をするか。技術士として技術者倫理を高める工夫が求められています。それが要件です。
② 環境・生態系の保全
 本業務において大規模なインフラ整備を実施する場合においても、既存の自然環境や生態系を保全することが社会の持続性の観点における要件であり、本業務においては上記2つの要件を常に留意する。
■講師コメント これは環境保全であり、「社会の持続性」の趣旨ははSDGsのことでありやや意味が違います。
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答案16/18 施工   S
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1、多面的な課題
(1)いかに想定を上回る風水害に対応するか
 我が国は災害大国であり、毎年のように台風、津波、豪雨、洪水など、風水害に被災している。また、近年は気候変動による風水害など想定を上回る外力による災害も頻発しており、最近では線状降水帯による土砂災害、河川氾濫などの被災も多い。技術面の観点から、いかに想定を上回る風水害に対応するかが課題である。
(2)いかに被災しない住み方をするか
 土砂災害の際に生命に危険が生じる可能性の高いレッドゾーン、河川反乱の際に浸水、家ごと流されるなどの被害を受けやすい地盤の低い密集地で暮らす住民も多い。制度面の観点から、いかに被災しない住み方をするかが課題である。
(3)いかに少ない人材で対応するか
 我が国は少子高齢化が進んでおり、将来的な技術者不足が顕著である。建設業は多くの人が関わる典型的な労働集約型産業である。河川改修、堤防強化など、修繕工事の需要があっても、技術者不足により施工できない現場が発生している。人材面の観点から、いかに少ない人員で対応するかが課題である。
2、最も重要な課題、解決策
(1)最も重要な課題
(1)いかに想定を上回る風水害に対応するかが最も重要な課題と考え、以下に解決策を示す。
2、解決策
(1)甚大化する風水害への対策
①流域治水対策
 河川管理者だけでなく、流域全体のあらゆる関係者と協力して幅広い治水対策を行う。砂防施設の整備、貯留、堤防の強化などを推進する。
②構造物の補修補強、津波対策
 道路橋示方書に沿った橋梁補修工事を実施する。また、根固めブロック設置、堤防背面の補強、バックウォーター対策など、粘り強い堤防の構築を推進する。
③ネットワーク強化
 災害時の輸送ルート確保のため、高規格道路の四車線化、ミッシングリンクの解消を推進する。また、直轄国道と高規格道路のダブルネットワーク化を図る。
(2)老朽化するインフラ対策
①インフラメンテナンスの集中的実施
 現段階で維持修繕が遅れている河川やダム、定期点検でメンテナンスの必要があると判断された橋梁、トンネルなど、集中的にメンテナンス工事を実施する。
②戦略的な予防保全の実施
 集中的なメンテナンスにより、ライフサイクルコストを考慮した費用対効果の高い工事を優先的に実施し、多くの維持管理、修繕工事を実施する。
③構造物の長寿命化
構造物の長寿命化計画を立案し、安心安全なインフラの構築を図る。
(3)デジタル化
①国土強靭化に関する施策のデジタル化
 ICT基準を策定し、導入環境を整備する。防災・減災、国土強靭化などに関する建設生産システム全体をデジタル化する。インフラDX技術を活用する。
②災害情報のデジタル化
 港湾において、ドローン、カメラ、衛星などを活用した被災情報の把握を行う。また、気象情報、防災情報、被災情報などを高度化し、災害時の迅速な復旧体制を構築する。
3、共通して生じうるリスク、解決策
(1)共通して生じうるリスク
 ハードを整備するとハザードが移り変わる可能性がある。これまで使用したハザードマップ、タイムライン、避難路などが使用できなくなるリスクが生じる。
(2)解決策
 ハードの整備に合わせて、ソフトも都度見直しできる体制の構築が解決策として考えられる。
4、業務を遂行するに当たり必要となる要件
 技術者として、常に公益を最優先にして取組み、構築して終わりではなく、維持管理し続けなければならない。常に安全な状態を維持するように考えることが重要である。
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答案17/18 施工   S
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(1)災害が激甚化・頻発化する中で風水害による被害を防止又は軽減するための課題を以下に示す。
課題1:いかに想定外の災害に対応するか
 近年、わが国では時間雨量50㎜を超える短時間強雨の発生件数が増加し、総雨量1000㎜を以上の雨も記録されている。雨の降り方が激甚化・局地化・集中化している。河川やダム、砂防堰堤は想定雨量を元に計画されているので想定雨量を超える雨には対応できない。技術面の観点から、いかに想定外の災害に対応するかが課題である。
■講師コメント 課題がいずれも難題の説明に終始しているようなので、もう少し解決可能な取り組み方針を示した方がよいでしょう。
課題2:いかに日頃から維持管理するか
 わが国の主要インフラは高度経済成長期に造られた物が多く、老朽化が進んでいる。それらを全て補修し維持管理するには、時間と労力がかかりすぎる。しかし、維持管理業務に時間と労力を費やす財源には限りがある。仕組み面の観点から、いかに日頃から維持管理するかが課題である。
課題3:いかに省力化するか
 少子高齢化社会を迎え、若者の「理科離れ」や建設業の悪いイメージの影響で建設業では働き手の数が減少している。また、熟練工やベテラン技術者の退職で経験者の数も減少している。社会では「働き方改革」として、ひとりひとりの就業時間の短縮を求められている。しかし、近年のような激甚化した風災害にも対応しなければならない。以前よりも少ない人数で若手技術者のみで業務を行う必要がある。人材能力面の観点から、いかに省力化するかが課題である。
■講師コメント 省力化は一応はOKですが、今日社会人の常識でもありますので、技術士としては何らかの技術方針を示すように。
(2)上記に示した課題のうち、課題1の「いかに想定外の災害に対応するか」は喫緊の課題であり、最も重要な課題として解決策を以下に述べる。
解決策1:住民の意識改革
 現状以上にハザードマップを活用し、住民の意識を変えることが重要である。風水害を想定した市町村規模での避難訓練を実施することが効果的である。また、「緊急地震速報アラート」や「Jアラート」を活用して避難経路や避難場所を住民の携帯電話などに直接、通知できるようにすることで正しい情報を周知できると考える。
解決策2:大雨・洪水の対策(流域治水対策)
 近年、水害が頻発していることを考えると「施設の能力には限りがあり、施設では防ぎきれない災害は必ず発生するもの」へと考え方を変える必要がある。水害を未然に防ぐ予防保全対策(堤坊・遊水池整備、河道掘削、侵食・洗堀対策、漏水・浸水対策等)が効果的である。
解決策3:ライフラインの確保
 風水害には企業や地方公共団体などがソフト対策に重点を置き対応する必要がある。防災関係機関・公益事業者等の事業継続計画(BCP)の策定、氾濫水の排除、氾濫水の制御など企業の防災意識の向上が効果的である。また、氾濫しても甚大な被害にならないような「粘り強い施設整備」が重要である。
(3)上記で示した解決策を実行しても生じるリスクと、それへの対応策について以下に示す。
リスク:ハード整備により変化するハザード
 古いハザードマップで安全な場所であっても、災害対策工事によって隣の堤坊を整備したことによって、その場所で被災してしまうことが考えられる。
対応策:リアルタイムなハザードマップを周知
 災害対策工事として堤坊を整備しながらリアルタイムにハザードマップを更新し周知する。さらに、新しいハザードマップを用いて避難訓練を実施すると効果的である。また住民ひとりひとりがマイタイムラインを作成し準備することが重要である。
(4)上記の業務を遂行するに当たり、必要となる要件と留意点を以下に述べる。
要件:エンドユーザーの安全・安心の確保
 建設業は公共性が高いので、常にエンドユーザーの安全・安心を確保し、維持しなければならない。
つまり公益性を高めることです。ではそのために「私」は何をしますか。技術者倫理の基本原則ではなく具体的な提案が求められています。
留意点:安全・安心の維持
 「造って終わり」では無く、安全に長期間維持できるように留意する。 
■講師コメント 「造って終わり」とはやや乱暴な結末のようです。もちろんいけないに決まっています。ここで主張すべきは施工した物件の持続性ではなく、社会の持続性なのでSDGsについて述べると良いでしょう。
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答案18/18 施工   S
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1.多面的な課題抽出と内容
①事前防災対策を実施する
我が国は、気温上昇等の気候変動が他国に比べて大きく、近年では全国的に集中的・局所的な豪雨が頻発している状況である。また、日本は急峻で脆弱な地盤が分布し、丘陵地や斜面にまで開発が進んでいるので風水害に弱いとされている。そして、人口、資産が密集している大都市は、洪水時の水位より低い位置のため潜在的リスクが高い状況である。
 ■講師コメント 問題点の記述が長く、ご自身の提案が少ないようです。前置きは簡潔にして、提案を積極的に述べるとさらに高得点が望めます。
下記のご提案↓は見出しとやや趣旨が違うようです。
そこで風水害を回避するための、高規格堤防等のハード設備の整備が重要である。
②「防災意識社会」への転換
 近年に発生した風水害を教訓にして、国、地方自治体、企業、国民の全てが「防災意識社会」へ転換することが重要である。国や地方自治体が企画する防災訓練や避難訓練を積極的にアピールし、多くの人を巻き込む必要がある。また、住民が参加する「まちごとまるごとハザードマップ」を活用するなどして、防災への意識を高めていくことが重要である。
■講師コメント  防災意識社会へ転換するため、ハザードマップ活用が課題です。そのことを単刀直入に、見出しにも書かれたらいかがでしょうか。さらに説得力増して高得点が期待できます。
③いかに内水氾濫における浸水を防除するか
 内水氾濫における浸水を防除し、都市が健全な発展を図るために、下水管渠や排水設備の整備が需要である。
■講師コメント 問1の記述が多くて、ややバランス悪いです。
2.最も重要と考える課題と複数の解決策
2-1.最も重要と考える課題
 私が最も重要と考える課題は、「いかに事前防災対策を実施するか」である。
2-2.複数の解決策
①築堤・河道掘削・遊水池等のハード対策
 風水害に対して、築堤・河道掘削・遊水池等のハード対策を実施することが解決策である。さらに、既存インフラの有効活用として、ダムの嵩上げや放流設備の増設も有効である。
②地域特性を考慮した治水対策
 風水害に対して、堤防設備の整備のほかに、輪中堤の整備と災害危険区域の指定等の地域特性を考慮した治水対策が重要である。
③総合的防災対策
 上記①、②の対策のほかに、防災講習や防災訓練、ハザードマップや避難経路の共有等のソフト対策も重要である。水防管理団体と河川管理者が洪水リスクの高い箇所の共同点検や、水防講習を行うことも効果的である。ハード対策とソフト対策をうまく組み合わせるHSBM(ハードソフトベストミクス)の考え方で、総合的に対策していくことが解決策である。
④河川等の災害時のリアルタイム災害状況の確認
 災害状況をリアルタイムに把握することが解決策である。いくつかの方法を下記する。
④-1.集中豪雨等の雨量を確認するX-RAIN
④-2.河川の流量や水位を測定するADCP流速計
    CCTV映像画像診断
④-3.浸水範囲を把握するSAR衛星
■講師コメント 専門的な提案内容が費用化されたようです。しかしこうした個別の事例展開ではなく、文章形で汎用性の高い提案内容を補足された方がさらに高得点が期待できます。

3.新たに生じるリスクと対応策
3-1.リスク
 対策を実施する費用が大きくなる。また、様々な対策には新技術が必要なため、それを扱う人材と教育が必要となる。
■講師コメント 間違いではないものの、答えとしてふさわしくはないと考えられます。わかりやすいことだからです。技術士でなくともわかっていることです。技術的提案の因果関係の先にある問題を挙げた方が安心です。
3-2.対応策
 国からの協力金や総合評価方式での加点等のインセンティブを与えることが解決策である。また。PPP/PFIを推進して、民間企業の財源や技術力を活用することも重要である。
4.技術者として必要となる要件・留意点
 技術者は一企業や一部の部門の利益を優先するのではなく、常に社会全体の公益確保の観点から業務をしなければならない。社会状況や最先端技術の動向を常に把握しながら、業務ごとに見直しを図り、より良い社会になっていくよう努めなければならない。
■講師コメント ここは技術者の心構えではなく、「技術者論理、社会の持続性の観点からの要件」が求められています。具体的に問2の提案をもとに、「技術者倫理を高め、SDGsのために、あなたならどう工夫して対応するか。」と問われています。
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