技術士試験問題と模範解答と解説 2021年 令和3年



建設部門模範答案
選択科目 
河川砂防  U-1-1 U-1-2 U-1-2
        U-2-1 U-2-1 U-2-2 U-2-2
        V-1  V-1   V-1   V-1
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U-1-1
ダムの治水機能を増強するダム再生の技術的な方策を2つ挙げ、それぞれについて説明せよ。また、各方策を実施するうえでの技術的な留意点を説明せよ。
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答案1 専門事項:治水利水計画
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1. 降雨予測精度を上げることによるダム治水機能向上
 降雨予測雨量の結果により、洪水発生前に利水容量の一部を事前放流し、ダムの治水機能を強化する。  
留意点:洪水後利水水位が回復できるため、予測雨量の精度が求められる。そのため、降雨予測は、降雨の不確定さを考慮した確率的な予測手法であるアンサンブル予測を採用する。
 また、事前放流量の設定手法は、予測雨量をもとにリアルタイムで流入量を確認できる分布型モデルを採用する。
2.放流設備の増設による洪水調節機能の強化
 既設ダムの放流設備より深い位置に、放流管や放流口を増設し、事前放流などの調節によりダムの洪水調節容量を増大する。 
留意点:既設ダムに放流管を増設すると、堤体コンクリートブロックの強度に影響を与える。そのため、3次元のFEM等堤体応力解析結果に基づき、削孔部分に鉄筋で補強する。
ダム池下層の冷水を下流に流下すると水稲の生育不良や下流河川の水生生態系への影響がある。そのため、選択取水設備などを増設し、表層の常温水を選択する。
また、増設した放流管の放流水の水圧が強く、放流管内のキャビテーションの発生や下流側水路面の損傷が発生するため、湾曲放流管や湾曲開水路等工法を採用する。
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河川砂防 U-1-2
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ダムの治水機能を増強するダム再生の技術的な方策を2つ挙げ、それぞれについて説明せよ。また、各方策を実施するうえでの技術的な留意点を説明せよ。
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答案1/2 専門事項:河川砂防計画
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1.ダム嵩上げ
1.1 概要
既存ダムの堤体を嵩上げし、ダム湖水面を上昇させることで、湛水面積が増える。その結果、ダムの貯水容量が増加する。
1.2 技術的な留意点
 新堤体を既設ダムに、安定に一体化させるため、温度応力対策を実施する必要がある。
 マスコン対策やクラック防止のためFEM温度解析により、新旧堤体接合面の箇所に補強鉄筋やアンカー工対策を実施する。
2.事前放流による治水機能強化
1.1 概要 
降雨予測などにより、洪水の発生前に利水容量の一部を事前放流し、洪水調整容量を常に最大限に確保しておく。
1.2 技術的な留意点
治水機能を上げるため、事前放流によって、ダムの貯留容量を確保し、洪水時の調整容量を最大限に確保する必要がある。また事前放流でも十分な利水容量を確保するため、貯水位を維持することが必要である。
 解決法は、貯留関数法や分布型流出モデル等によって流出計算をし、ダムへの流入量を予測して、利水ダムの場合は確保容量を算出する。
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答案1/2 専門事項:ダム設計
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1.ダム再生の技術的方策
(1)堤体のかさ上げ
 ダム堤体をかさ上げし、貯水容量の増分を洪水調節容量に配分し、洪水調節機能の増強を図る。堤体かさ上げには、同軸かさ上げ、下流かさ上げ、上流かさ上げがある。かさ上げ工事は既設ダム運用中に実施するため、転流工等で放流能力を確保する計画を検討する。
(2)放流設備の増設
 堤体削孔を実施し、放流設備を増設することで、洪水調節機能の増強を図る。堤体削孔により堤体の安定性が損なわれる場合、トンネル洪水吐きを新設する。堤体削孔は水中での施工となるため、洪水発生時の安全性に配慮した上流締切を検討する。
2.技術的留意点
(1)堤体のかさ上げ
 新設ダムでは、内部応力を二次元的に表現する剛体法で算出し、配合区分を設定する。これに対し、堤体かさ上げでは、応力を三次元的に解析できるFEM解析を応用する。詳細な応力区分に応じた経済的な配合設定が可能となり、かつ、新旧コンクリートを確実に一体化させる堤体配合区分を設定できる。
(2)放流設備の増設
放流管まわりの応力集中の程度を確認し、必要に応じて、コンクリート部(土木構造物)とゲート部(鋼構造)の協働設計とする。
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河川砂防 U-2-1
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我が国のインフラは、その多くが高度経済成長期以降に整備されており、今後、建設から50年以上経過する施設の割合は加速度的に増加する見込みである。このため、国民の安全、安心や社会経済活動の基盤となるインフラの維持管理・更新を計画的に進めていく必要がある。あなたが、施設の老朽化(長寿命化)対策に関する計画策定の業務を担当することとなった場合、河川、砂防及び海岸・海洋のいずれかの分野を対象として、以下の問いに答えよ。
(1)業務着手に当たって収集・整理すべき資料や情報について述べよ。併せて、それらの目的や内容について説明せよ。
(2)業務を進める手順について述べよ。併せて、それらに関し、留意すべき点、工夫を要する点について説明せよ。
(3)業務を効率的、効果的に進めるための関係者との調整方策について述べよ。
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答案1/2 専門事項:河川砂防計画
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1.河川における収集・整理すべき資料や情報(目的や内容)
1)1年に1回行われる法定点検結果の資料
 河川管理施設の点検結果から、構造物の問題把握を行う。
参考資料:http://www.river.or.jp/kougi2021_4.pdf p15
2)更新時期が集中する河川構造物の把握
 各自治体で把握している河川管理台帳から構造物の設置年度を調査し、
 50年以上経過した施設の数を確認する。
参考資料:https://www.kk.jcca.or.jp/upload/oteire/03/file02.pdf p14
3)効率的な更新に対しての資料情報
 膨大な数の樋門、樋管を調査するための、点検手法の資料収集
 人が入っていけない管路内部の点検に、自走式カメラを使用するなどICT技術を活用する。
2.業務を進める手順
1)対象施設ピックアップ
点検補修履歴から劣化が進行している施設をピックアップする。
2)健全度評価
劣化曲線に合わせて健全度評価を行う。堤防などの土構造、樋門などのコンクリート構造物、排水機場のポンプなどの機械設備、電気設備では、評価基準や劣化速度異なる。それぞれの評価軸に併せて健全度評価を行う。
3)優先順位の設定
アセットマネジメント技術の活用。河川整備計画などから、将来的な重要度から施設の優先度を設定し、災害時に被災した場合の被害状況を加味する。
4)維持管理計画の策定
更新費用を算出し、長寿命化計画を策定する。
工夫点は、維持管理に関する予算も考慮した計画を作成すること。
3.関係者調整
市町村のインフラ管理者は、健全度評価の実施にあたり、膨大な数の施設の点検が必要であった。しかし点検の人員や予算が不足していた。
そこで私は、ICTを活用した効率的な点検を提案した。市町村の点検部署や点検を実施する協力会社に、堤防点検にMMS、橋梁などではドローンによる写真撮影などICTを活用した点検の実施を提案した。資機材を所有していない部署に対しては、レンタル品の活用を図ることや、機材メーカーの協力を得るようにした。
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答案2/2 専門事項:河川砂防構造物設計
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1.砂防堰堤の長寿命化対策の収集・整理すべき資料
@対象施設上流域の荒廃状況、土砂の流出状況及び保全対象施設との位置関係を整理し、流域全体に対して施設の重要性、修繕、改築、更新の優先度を検討する。
A砂防堰堤の変形・破損・クラック・漏水及び基礎洗堀等の発生原因を分析し、補修の対策を検討する。  
B堰堤外観の変形、漏水、ひび割れ等から、堰堤内部のコンクリートの状況を確認し、劣化の進み具合、進捗速度等を把握し、対策の緊急性を検討する。
2.業務を進める手順
@点検により施設の変状の把握
施設の損傷や周辺の地形状況の変化を確認できるため、点検調査時、同じアングルで写真を撮影する。また変状の進捗を確認できるため定規と一緒に撮影する。
A堰堤内部の詳細調査により健全度評価、
外観調査で堰堤内部の変形や漏水の状況が確定できない場合、弾性波トモグラフィ、ボーリング調査、ボアホールカメラ等による施設内部の状況を確認して、内部材質の劣化、損傷の具合により健全度を評価する。
B健全度評価結果により優先順位を検討する
下流の保全対象の安全を確保するため、対象堰堤だけではなく、流域全体の土砂整備率、流木整備率を100%になるように整備の優先順位を検討する。
C補修工法を検討する
流域全体の土砂整備率が高く流木整備率が低い場合は、流木対策工の増設または既設の不透過堰堤から透過型に改良して、流木整備率を向上する。
流域全体の土砂整備率が低い場合は、対象堰堤の増強補修に合わせて、堰堤嵩上げにより土砂整備率を向上する。また、下流側への土砂供給や除砂の手間などを考慮し、水通し部では、透過型を採用する。
3.関係者との調整方策
当初堤体内部の漏水状況調査では、外観で確認した数箇所の漏水位置を通してボーリング調査を実施する計画だったが、調査本数が多く、また水通し部で仮締切が必要であり、出水の影響や調査の手間がかかる。
そこで私は地質調査会社に弾性波探査で一次スクリーニングし、堰堤内部の漏水箇所を把握した上、堰堤の袖部から斜め方向で水通し部の漏水箇所を通して、ボーリング調査を指導した。仮締切なし出水の影響にもなく、ボーリング1本で堰堤内部の調査ができた。
他方、当初広範囲の流木量の調査では、現地の樹木の高さや密度の調査で時間と労力がかかる。また、サンプル法であるため、調査位置の選択により精度にも影響する。そこで私は測量会社にLPデータを用いて樹木の密度、高度を解析し、樹高と直径の相関式で樹木直径を算出するように指導した。
こうして、2者が私の指導で調査の効率が向上することにより、私は本砂防堰堤の長寿命化プロジェクトの効率化、工期の短縮化を取りまとめた。
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河川砂防 U-2-2
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 近年発生している大規模な水害・土砂災害を踏まえると、そのリスクを関係機関や住民と共有し、生命・財産を守る取組につなげることが重要である。このため、洪水、高潮、土砂災害の被害を受ける区域をあらかじめ想定しておくことが不可欠である。あなたが、気象を要因とする洪水、高潮、土砂災害の被害想定区域の設定に関する調査・検討の業務を担当することとなった場合、河川、砂防及び海岸・海洋のいずれかの分野を対象として、以下の問いに答えよ。
(1)業務着手に当たって収集・整理すべき資料や情報について述べよ。併せて、それらの目的や内容を説明せよ。
(2)業務を進める手順について述べよ。併せて、それらに関し、留意すべき点や工夫を要する点について説明せよ。
(3)業務の成果が効率的・効果的に活用されるための関係者との調整内容について述べよ。
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答案1/2 専門事項:河川構造物設計
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1.収集・整理すべき資料や情報
1.1地形情報
 谷部や急傾斜地など土砂災害が発生する可能性が高い崩壊危険性の高い地点を絞るため、地形情報を収集する。
1.2地質情報
 風化による崩壊を見出すために花崗岩地質を確認する。
1.3降水量
 土壌中に雨が浸透すると、抑止力が低下し土砂が崩壊する恐れがあるため、地域の最大降水量を確認する。
1.4地震
 地震の揺れにより、地盤がゆるみ土砂崩壊が発生するため、過去の地震履歴や断層の確認を行う。
2.手順と留意点ほか
2.1 土砂災害危険範囲の設定 
 急傾斜地分布資料から、災害危険個所の要因分析や崩壊範囲の設定を行う。
2.2 地質図からの危険範囲の設定
 風化花崗岩などマサ土化した脆弱な地質のエリアを国土地理院地質図からリストアップし、危険範囲の設定を行う。
2.3 降水量からの危険範囲の設定
 降雨により土壌中の地下水位が上昇し、土砂が崩壊する原因となるため、土砂崩壊の形状・位置、土量等を解析し区域を設定する。
2.4 土砂災害危険区域の設定
 1時間雨量と土壌雨量指数をもとに、時々刻々と変化する雨の状態をつなぐスネーク曲線を作成する。その結果での 1kmメッシュごとの土砂災害発生の危険性を評価し、土砂災害危険区域を設定する。
 設定に際し、LPデータ等高精度な地形図を用いて危険箇所の抽出漏れがないよう留意する。
3.区域図が活用されるための関係者調整
 防災担当者は安全な土地利用を求めるが、不動産会社や地主は金銭的な負担が必要な土砂災害への対策工はできるだけ避けたい。
 そこで私は、防災担当者から、区域図に記載している土砂移動の慣性力や移動エネルギーにより家屋が破壊される恐れがある箇所を聞き出した。その情報をもとに、不動産会社に、安定勾配だけでなく、安全のため擁壁のほか複数の落石防止策もアドバイスした。地主は安心して土地売却に応じた。
 このように区域図を活用することで、関係者が土砂災害の被害を正しく理解し、被害に対して確実に対策を実施することができ、安全な土地利用の推進を行うことができた。
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答案2/2 専門事項:ダム設計
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1.収集・整理すべき資料や情報とその目的・内容
(1)水文データ
 対象流域における水位・流入量、放流量等の水文データを整理・収集する。当該データの収集・整理の目的は、流況特性の把握、洪水予測解析の基礎データとして使用することである。
(2)被災履歴
 対象流域において、堤防決壊等による被災履歴を収集・整理する。当該データの収集・整理の目的は、被災メカニズムを分析して、過去の知見を洪水予測に反映し、洪水の予測精度を高めるためである。
2.業務遂行手順と留意点・工夫点
(1)流域全体の課題の抽出
 収集した水文データおよび被災履歴をもとに、対象流域で洪水による被災が生じやすい箇所を抽出する。加えて、対象流域で生じてきた被災のメカニズムを分析する。
 上記と併せて、流域での住民の避難状況調査や土地利用状況も整理する。洪水発生時に生じうる流域全体の課題をハード・ソフト面の両方から分析する。
(2)浸水想定区域の抽出
 収集データをもとに、流出・氾濫解析を実施する。これにより、流域における浸水想定区域を抽出する。
 なお、氾濫解析モデル構築時には、気候変動や線状降水帯を考慮する。
併せて、モデル構築にAI(人工知能)を活用し、予測精度を高めるとともに計算速度向上を図る。
(3)治水整備計画を反映した浸水想定区域の設定
 災害激甚化に対して、河川堤防やダムのかさ上げ等の治水整備計画が検討・実行されている。治水施設の整備は10年以上の長期間に及ぶ場合があることから、治水施設の整備段階を反映した浸水想定区域を最終設定する。これにより、整備段階に応じた被害想定区域を設定でき、実態に即した避難行動計画の策定等が実施可能となる。
3.関係者との調整内容
(1)地域住民との住居移転の調整
 洪水による被害想定区域に居住する地域住民に対し、気候変動で災害が激甚化傾向にある点や、居住地域の被災リスクが高い点を説明する。そして、被災リスクが低い場所への移転を誘導・調整する。
(2)避難行動の推進
 地域住民や事業者等に対し、段階的な被害想定区域に応じたタイムラインの策定を促す。
この際に、要配慮者施設の入居者のタイムライン策定において、歩行困難者の移動手段確保や車いすの運搬等で地域のバス会社やタクシー会社の余剰車両や人員を連携・調整する。1.収集・整理すべき資料や情報とその目的・内容
(1)水文データ
 対象流域における水位・流入量、放流量等の水文データを整理・収集する。当該データの収集・整理の目的は、流況特性の把握、洪水予測解析の基礎データとして使用することである。
(2)被災履歴
 対象流域において、堤防決壊等による被災履歴を収集・整理する。当該データの収集・整理の目的は、被災メカニズムを分析して、過去の知見を洪水予測に反映し、洪水の予測精度を高めるためである。
2.業務遂行手順と留意点・工夫点
(1)流域全体の課題の抽出
 収集した水文データおよび被災履歴をもとに、対象流域で洪水による被災が生じやすい箇所を抽出する。加えて、対象流域で生じてきた被災のメカニズムを分析する。
 上記と併せて、流域での住民の避難状況調査や土地利用状況も整理する。洪水発生時に生じうる流域全体の課題をハード・ソフト面の両方から分析する。
(2)浸水想定区域の抽出
 収集データをもとに、流出・氾濫解析を実施する。これにより、流域における浸水想定区域を抽出する。
 なお、氾濫解析モデル構築時には、気候変動や線状降水帯を考慮する。
併せて、モデル構築にAI(人工知能)を活用し、予測精度を高めるとともに計算速度向上を図る。
(3)治水整備計画を反映した浸水想定区域の設定
 災害激甚化に対して、河川堤防やダムのかさ上げ等の治水整備計画が検討・実行されている。治水施設の整備は10年以上の長期間に及ぶ場合があることから、治水施設の整備段階を反映した浸水想定区域を最終設定する。これにより、整備段階に応じた被害想定区域を設定でき、実態に即した避難行動計画の策定等が実施可能となる。
3.関係者との調整内容
(1)地域住民との住居移転の調整
 洪水による被害想定区域に居住する地域住民に対し、気候変動で災害が激甚化傾向にある点や、居住地域の被災リスクが高い点を説明する。そして、被災リスクが低い場所への移転を誘導・調整する。
(2)避難行動の推進
 地域住民や事業者等に対し、段階的な被害想定区域に応じたタイムラインの策定を促す。
この際に、要配慮者施設の入居者のタイムライン策定において、歩行困難者の移動手段確保や車いすの運搬等で地域のバス会社やタクシー会社の余剰車両や人員を連携・調整する。――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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河川砂防 V-1
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 V-1 近年、コロナ禍の影響もあって急速に進む社会変容により、社会の様々な分野で解決策としてのSociety5.0の取組が進んでいる。水防災分野でも、危険性、狭隘性、或いは立地の辺すう性によるアクセス困難な特性を有する施設が多数あることから、施設の調査・計画から設計・施工、供用、点検・維持管理に至る建設生産プロセス全体に亘り、作業の遠隔化の取り組みを推進することが求められている。
水防災分野での遠隔化の取り組みを推進していく上での課題を、水防災対策施設の有する特性を踏まえて、技術者としての立場で多面的な観点から3つ抽出し、それぞれの観点を明記した上で課題の内容を示せ。
前問(1)で抽出した課題の内最も重要と考える課題を1つ挙げその課題に対する複数の解決策を示せ。
前問(2)で示したすべての解決策を実行した上で生じうる波及効果と専門技術を踏まえた懸念事項への対応策を示せ。
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答案1/3 専門事項:河川砂防構造物設計
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1.水防災分野での遠隔化の取組を推進する課題
@砂防堰堤の監視、点検及び補修工事の遠隔操作
砂防堰堤、落差工施設等の調査・点検・補修作業では、辺陬かつ土砂災害や転落等の危険性があるため、ドローンやVRなど遠隔操作により現場状況の確認、定点写真撮影、道路・施設の補修等を速やかに実施するが必要である。
A辺すう地区への現場支援
山奥や国立公園、離島等での雨量、土砂観測施設では、遠くで辺陬性によりアクセス困難であるため、定置式テレビカメラ(画像)、音声操作の感知センサー、VR等を利用して、施設状況の確認、点検、施設故障確認、排除、修理等を日常作業の実施が必要である。 
B点検設備、点検技術の進化
導水路や樋管等区間が狭い、管内水深がある施設の点検・調査作業では、AI技術を活用した水中ロボットなど無人化点検の技術の進化が必要である。
2.課題「@砂防堰堤の監視等」に対する解決策
@施設監視、無線観測センサーの設置
砂防堰堤の上下流、堤体及び周辺の法面に監視カメラ、地すべり感知センサー等無線監視システムを設置して、日々の観測(写真)状況をAI分析等により施設の健全度を確認する。
また、ドローンのAI機能を利用して、定点位置の写真を撮影し、施設の変位・変化・劣化、摩耗、破損等を観測する。観測したデータを分析し、健全度の予測するシステムを強化する。
さらに、熱赤外線カメラを搭載したドローンを利用して、砂防堰堤の画像を撮影し、熱赤外線映像法により堰堤の漏水や堤体コンクリートの空洞化等の状況を検知する。
ABIM/CIMの活用
土砂災害直後、航空機やヘリコプターにレーザスキャナーを搭載し、空中から地表面までの距離を計測し、GPSによる位置情報と組み合わせ、速やかに被災地の三次元の地形データを作成する。作成したデータにより災害復旧や緊急対応の3D設計データ等を作成する。
また、VRと3次元設計データを利用して、遠隔地からICT建設機械を自動制御して、道路や砂防堰堤等の補修工事の建設現場のIoTを実施する。
B災害予測
雨量計、水位計、濁度計、ハイドロフォン、CCTV等を設置し、または合成開口レーダ(SAR)を活用して、リアルタイムの水位情報、浸水状況、土砂濃度・粒径等土砂の動態情報を把握する。
また、把握したリアルタイム情報と予測降雨情報を土砂変動予測システムに入力し、現地の土砂変動予測や砂防堰堤の安全性の確認ができる。堰堤下流側の住民、対象施設への避難発令や災害時の救援作業の判断材料となる。
3.波及効果と懸念事項への対応策
(1)波及効果
遠隔化操作の技術の利用、技術の進歩により、危険、辺陬、狭隘性の施設へのアクセスが容易になることで、都会以外の地方地域社会の安全性、社会の持続性につながる。また遠隔技術、情報通信技術の進歩により、技術者の通勤が多元化により、地元の人手不足の補填までの波及効果が起こる。
(2)懸念事項への対応策
【懸念事項】:新技術の利用により、現地調査や点検作業等現場作業員の採用が減少する。また、観測センサーやCCTV等の遠隔化装置の利用により、現地の管理用道路等の利用が激減して、維持管理が困難になる。
【対応策】:新技術に対応する地元の技術者の育成より、雇用を創出する。また、管理用道路等の維持管理は、VRや自走式ロボットなどを利用して、遠隔操作により利用時のみ最低限の草刈りや落石除去、補修などで対応する。
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答案2/3 専門事項:ダム設計
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水防災分野での遠隔化のための課題
(1) 水中点検ロボットによる水中部の健全性評価技術の導入 ?
 水防災対策施設の水中部調査は潜水士に依存。ただし、潜水士による調査は非効率かつ安全性にリスクあり。このため、打音器や漏水検知器等を応用した水中点検ロボットを導入し、安全かつ効率的に水中部調査を実施する必要がある。
(2)遠隔操作型の施工機器の導入 ?
 河道の湾曲部等の狭隘地形では、流速が速く、施工時の安全リスクがある。このため仮締切実施と併せて、遠隔操作型の施工機械を導入し、施工の安全性を高める。
(3) センサーを活用した遠隔モニタリング技術の導入 ?
 ダムは山間部に点在するため、従来の林道・船舶移動によるダム堤体や貯水池周辺状況の目視調査では調査に多大な時間・危険性を伴う。そこで、ダムごとに設置・管理されたセンサーで計測値を発信し、通信技術によりデータ収集し、遠隔モニタリングすることで、維持管理データの一元管理し、管理の効率化・安全性向上する。
「Bセンサーを活用した遠隔モニタリング技術の導入」とその解決策
(1)ダム堤体に生じたひび割れの遠隔モニタリング:ダム総合点検や定期点検を基に、堤体の安全性を損なう可能性があるひび割れを抽出。危険性の高いデジタルリニアゲージを設置。ひび割れ幅の計測値を集約管理し、ひび割れの進展の程度を継続監視し、目視調査せずとも遠隔モニタリングを実施し、管理を効率化。
(2)水分センサによる斜面崩壊のモニタリング:地形図や現地踏査で崩壊危険個所を抽出。崩壊危険個所の土中に水分センサを配置。土中の水分量を基に斜面安定解析法を応用し、広大な流域に点在する斜面崩壊が懸念される個所を遠隔で監視。
(3)堤体変位異常の即時モニタリング :堤体変位をプラムラインで自動計測を実施。計測値のうち、正常期間を学習させた深層学習LSTMモデルを構築し、異状状態の有無を遠隔で自動監視。点在するダムの堤体変位を一元管理でき、直接ダムに行かずとも堤体状態を管理することで、管理の効率化を図る。
3. 波及効果と懸念事項への対応策
(1)波及効果:作業の自動化により作業が効率化で生じる、余剰人員を新たな開発業務に配置できる。
(2)懸念事項とその対応策
懸念事項:特定の箇所での計測のみの管理で安心感が高まり、周辺部の変状との連続して進展する異状を見落とす。
対応策:対象とする変状箇所を含めた周辺部を定点撮影し、状態監視も実施。
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答案3/3 専門事項:河川計画及び設計
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1.作業の遠隔化の取組推進の課題
1)遠隔操作ロボットなどによる施工
砂防堰堤での高所やダム湖内の水中など労働災害の発生が危惧される箇所での作業や、河川では狭隘な水路や樋門工事の作業がある。
そこで施工段階にICT(情報通信技術)を活用して、効率化と品質の向上を図る情報化施工をすすめる。例えば、遠隔操作の無人重機、又は自律式ロボット重機により無人施工を行う。
2)現場状況の事前VR検討
 ダム湖や河川、港湾の土砂堆積の状況を確認するためには、潜水士や深浅測量による確認が必要であり、危険である。
そこで水中や高所、圧力管内などの状況をバーチャル空間で再現する。そして浚渫などの対策工をVRで検討し、危険な作業を事前に安全な場所から施工計画を実施する。施工計画以外にも安全教育、品質管理にもVRは適用可能である。
3)IOTセンサー他による情報収集と危険判断
ダムや河川の気象データ、水位などデータをIOT技術で情報収集し、移報すると共に、現象からAI分析により危険事象を推定し、危険予知する。例えば、水位データから堤防から越水すること予測し、洪水警報を発するなどである。
このようにIOTでダムや河川などの遠隔地水防災施設の状況を感知して、全国の施設を一括管理する。
2.課題「遠隔操作ロボット施工」の解決策
1)危険なダム湖内で水中カメラの活用
 これまでダム湖内の点検は潜水士が行ってきたが、潜水士では危険が伴うこと、ゲート付近などは水流があり近接撮影が困難であった。
ダムの堤体等のコンクリート構造物の「損傷等」やゲート設備の「腐食、損傷、変形」等について水中維持管理用ロボットを活用した概査を実施する。計測データはリアルタイムでパソコンなどに取り込み、画像確認を行う。
2)災害現場などでの無人化施工
 土砂崩れなどの災害現場で復旧作業は、二次災害の恐れがあり危険である。
 そこでAIを搭載したICT重機を使用して無人化施工を行う。さらに、施工現場への同時に多数の建設機械の投入の実施、高解像度映像による現実に近い操作感覚を提供、?超遠隔から建設機械の操作の実施するために、5Gを活用する。
3)急傾斜地などにおけるロボット活用
急傾斜地は、現場へのアクセス困難性のほかに、作業員と重機との接触の危険がある。そこで、UAVとレーザースキャナによる3次元測量を行い、3次元設計データと合わせて、ICT重機の自動制御によるマシンコントロールでの施工を行う。また測量時にはLPデータやSAR衛星データの活用を図り、施工時における渓谷部の崖錐地形などの危険個所の抽出を行う。
3.解決策の波及効果と懸念事項への対応策
1)波及効果
@インフラの長寿命化
 ダム湖内の構造物の損傷などを漏れなく確認することができ、損傷への対応が速やかに行われることから、インフラの長寿命化につながる。
A災害による被害の削減
 工事が遅延なく行われるため、再度災害防止につながり、災害による被害が削減する。
B人材育成の推進
 安全な遠隔地で作業が可能であることから、新入社員など経験の浅い技術者と一緒に現場の状況を把握できることから、人材育成の推進が図れる。
2)専門技術を踏まえた懸念事項とその対応策
@技術力の低下
画面上での判断となり、現地現物がすたれ、技術力が低下する。そこで現場のイメージを持たせるためにVR体験を行う。
A予期せぬ埋設物への対応
ロボットによる地面掘削時に、予期せぬ埋設物が出てきた場合、ロボットでは判断ができずに埋設物を破損させる恐れがある。そこで監視モニタによる熟練技術者による判断を行う。
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答案4 専門事項:河川計画
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1.水防災分野での遠隔化の取組を推進していくうえでの課題
(1)人材確保の観点から、いかに新技術を活用するかの課題
 少子高齢化により、1995年をピークに生産年齢人口は継続的に減少しており、65歳以上のベテラン技術者の大量離職が想定されることから、2023年までに21万人の人材不足を解消する必要がある。よって、人材不足解消のためにいかに新技術を活用するかが課題であり、生産性を向上させるべき。
(2)働き方の観点から、遠隔化の生活への浸透・定着の課題
 我が国の新技術の生活への定着率は諸外国に比べ低いことから、新技術の生活への定着の遅れが課題である。中でも、ICTを利用した遠隔操作による働き方であるテレワークは、場所や時間を有効に活用できる柔軟な働き方であることから、ソフトなどのシステムの平準化やデジタル化を推進すべきである。
(3)サイバー攻撃のリスクの観点より、セキュリティ対策の課題
 新技術の活用では、共通プラットフォーム上にセンサーや危機管理水位計、監視カメラなどのビックデータが点在するため、常にサイバー攻撃のリスクがあるため、セキュリティ対策の強化が課題である。よって、データの真正性の確保やデータ管理のシステム構築を行うべきである。
2.最も重要と考える課題に対する解決策
 人材不足は今後も継続的に進む問題であることから、生産性向上に向けた新技術の活用を最も重要と考え、以下に解決策を述べる。
(1)BIM/CIMの活用
 調査、計画、設計、施工、維持管理における建設生産プロセス全体で3次元モデルを連携することが解決策である。施工分野においては、GNSSを利用したICT機器を搭載した重機によるICT施工が行われているが、建設生産プロセス全体で共通化されていない。調査、計画、設計段階において3次元データを活用するためには、地形モデルと設計モデルの高精度化が重要であり、LPデータやSAR衛星データの活用により制度の高い地形モデルを構築することが生産性向上を図るうえで重要である。
(2)AI・IoTによる高度予測
 維持管理において重要となる点検・調査におけるドローンなどのUAVの利活用による3次元データをデータベース化し、インフラデータプラットフォームを構築することで生産性向上が図られることから解決策である。また、蓄積したデータにより、AI・IoTを活用した劣化予測が可能となり、維持管理の選択と集中が可能となる。
(3)気候変動への対応
 我が国の国土の約7割が山地・丘陵地を占めており、災害が発生しやすい国土条件である。地球温暖化の影響である気候変動による降雨量増加に伴い、災害の頻発・激甚化が問題となっていることから、XRAINの配信エリア拡大やスネークラインのCL超過指標による災害予想の高精度化を進めることが解決策である。
3.波及効果と懸念事項への対応策
(1)波及効果
 上記の解決策を実行した上で生じる波及効果は、国土が強靭化されることによって、持続可能で暮らしやすい社会の実現に繋がることである。
(2)懸念事項への対応策
 懸念事項としては、新技術の進歩に伴い機械や機器を操作する能力は高まるが、自らが計算や計測をする機会が減少するため、若手技術者の技術力が低下することである。解決策として、新技術に対応した資格制度の導入や、OFF−JTやナレッジマネジメントなど、若手技術者の教育制度を構築することである。
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