技術士試験問題と模範解答と解説 2021年 令和3年


機械部門模範答案
必須科目    Ⅰ-1 Ⅰ-1
必須科目    Ⅰ-2
選択科目 
機械設計    Ⅱ_1_1 Ⅱ-1-2
Ⅱ-2-1 Ⅱ-2-1
Ⅲ-2_1
材料強度・信頼性 Ⅱ-1-1
Ⅱ-2-1
Ⅲ-2
産業機械、加工  Ⅱ-2-1S
Ⅲ-2
※問題番号末尾のSはスタンダード模範解答を表します。(無印はプレミアム模範解答)
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機械部門 必須科目Ⅰ-1
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経済産業省が2018年12月に発表したデジタルトランスフォーメーション(DX)推進ガイドラインには、DXの定義として「企業がビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」と謳われている。近年、米中貿易摩擦、英国のEU離脱、保護主義の高まり、さらには新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、世界の不確実性が高まっている。このようなビジネス環境の激しい変化に企業が対応し競争力を維持していくためには、既存の枠組みに捕らわれずに時代の先を読んで企業を変革していく能力が求められており、そのためのDXへの取組をどのように加速させていくかが我が国製造業の直近の課題となっている。
(1)このような時代の変革期の中でDXを推進していくに当たり、技術者の立場で機械技術全般に関する多面的な観点から3つの課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ。
(2)抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する機械技術者としての複数の解決策を示せ。
(3)提案した解決策をすべて実行した結果、得られる成果とその波及効果を分析し、新たに生じる懸念事項への機械技術者としての対応策について述べよ。
(4)前問(2)~(3)の業務遂行に当たり、機械技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から必要となる要件・留意点について述べよ。
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答案1
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1.DX推進の課題
(1)デジタルツイン導入の設計高速化
 IoT技術によって、仮想空間に物質空間を再現するデジタルツインを導入する。仮想環境において、シミュレーション技術により設計/製造/生産/保守を検証しながら予測する。
 製品開発では、予測データから定量的な意思決定を推進し、低リスクで高品質かつ高速な設計を実施する。
(2)プラットフォーム構築による設計合理化
 市場の急速な変化への対応には、膨大データを運用するインフラ環境を構築する必要がある。クラウド型でアプリケーション実行(CAD/CAE/CAM)やデータ収集・保存できるデジタルプラットフォームを構築する。
 プラットフォーム構築では、CAD/CAE/CAMソフトの運用やデータ保存の稼働環境を準備し、関連データを一元管理する。サプライヤーや設計部署間で情報共有し、設計を合理的に実施する。
(3)データドリブン型ものづくりでの品質向上
 不確実性の対応には、企業変革力を向上させるものづくりが必要である。リアルタイムなデータ収集・分析・フィードバックにより、データドリブン型で信頼性の高い意思決定を実施する。
 設計データと収集した運用データの要因分析から、将来の故障予測や改善点を特定して、改良設計による品質向上につなげる。
2.「デジタルツイン導入の設計高速化」の解決策
(1)バーチャルモデルの運用による競争力強化
 実運用中の製品から、リアルタイムで膨大データを収集し、CAD/CAEデータと連携したバーチャルモデルを構築する。市場変化に対応させてバーチャルモデルを最新情報に更新し、未来を予測した設計/解析を実施して競争力を高める。
(2)3Dプリンター技術による経済性向上
 デジタルツインの設計データから、3Dプリンター技術を試作品製作や複雑形状の設計に導入する。試作品での切削加工の時間短縮や複雑形状の一体造形により、経済性を高める。また、加工時間の短縮や精度向上につながる治具も造形し、生産ラインを改善する。
(3)スマート工場の生産工程開発による信頼性確保
 仮想空間に生産ラインを再現するスマート工場を導入する。生産ライン上の挙動をデジタルツインに反映し、スマート工場で先々のトラブルのような事象を仮想的に予測する。
 現実世界において、機器の整備回数の削減や疲労による故障時期を予知して、信頼性を確保しつつ経済性も向上させる。
3.成果と波及効果、懸念事項と対応策
(1)成果と波及効果
 開発期間の短縮で、高品質かつ信頼性の高い設計が可能となる。設計/生産力だけでなく、工場や生産ラインにおける品質の向上、稼働率を高めることが可能となり、サプライチェーン強化が期待できる。
(2)懸念事項と対応策
 デジタルツインで熟練作業者の作業がIoT技術に代替し、製造業の雇用損失が拡大する恐れがある。将来的に、製造業全体の人員縮小や競争力低下のリスクが存在する。
 対応策として、ナレッジデータベースを構築し、知識を形式知化するマネジメントシステムを運用する。知識を共有することで技術の属人化を防止し、技術力を継続的に向上する。
4.業務遂行において必要な要件・留意点
(1)技術者倫理
 デジタルツインによる設計/製造プロセスの見える化から、定型的業務を洗い出す。技術者倫理を高めるため、RPA(Robotic Process Automation)を導入して、定型的業務を合理化する。これは、技術士倫理綱領の1番「公衆の利益の優先」に相当する。
(2)社会の持続可能性
 デジタルツインの活用では、サーキュラーエコノミー型を志向する。社会持続可能性を高めるため、設計/製造/運用/回収再生サイクルの循環型を仮想化して、生産性を高める。これは、国際目標SDGsの目標12「つくる責任、つかう責任」に相当する。
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答案2
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1.DX推進の課題
(1)デジタルツイン導入の設計高速化
 IoT技術によって、仮想空間に物質空間を再現するデジタルツインを導入する。仮想環境において、シミュレーション技術により設計/製造/生産/保守を検証しながら予測する。
 製品開発では、予測データから定量的な意思決定を推進し、低リスクで高品質かつ高速な設計を実施する。
(2)プラットフォーム構築による設計合理化
 市場の急速な変化への対応には、膨大データを運用するインフラ環境を構築する必要がある。クラウド型でアプリケーション実行(CAD/CAE/CAM)やデータ収集・保存できるデジタルプラットフォームを構築する。
 プラットフォーム構築では、CAD/CAE/CAMソフトの運用やデータ保存の稼働環境を準備し、関連データを一元管理する。サプライヤーや設計部署間で情報共有し、設計を合理的に実施する。
(3)データドリブン型ものづくりでの品質向上
 不確実性の対応には、企業変革力を向上させるものづくりが必要である。リアルタイムなデータ収集・分析・フィードバックにより、データドリブン型で信頼性の高い意思決定を実施する。
 設計データと収集した運用データの要因分析から、将来の故障予測や改善点を特定して、改良設計による品質向上につなげる。
2.「デジタルツイン導入の設計高速化」の解決策
(1)バーチャルモデルの運用による競争力強化
 実運用中の製品から、リアルタイムで膨大データを収集し、CAD/CAEデータと連携したバーチャルモデルを構築する。市場変化に対応させてバーチャルモデルを最新情報に更新し、未来を予測した設計/解析を実施して競争力を高める。
(2)3Dプリンター技術による経済性向上
 デジタルツインの設計データから、3Dプリンター技術を試作品製作や複雑形状の設計に導入する。試作品での切削加工の時間短縮や複雑形状の一体造形により、経済性を高める。また、加工時間の短縮や精度向上につながる治具も造形し、生産ラインを改善する。
(3)スマート工場の生産工程開発による信頼性確保
 仮想空間に生産ラインを再現するスマート工場を導入する。生産ライン上の挙動をデジタルツインに反映し、スマート工場で先々のトラブルのような事象を仮想的に予測する。
 現実世界において、機器の整備回数の削減や疲労による故障時期を予知して、信頼性を確保しつつ経済性も向上させる。
3.成果と波及効果、懸念事項と対応策
(1)成果と波及効果
 開発期間の短縮で、高品質かつ信頼性の高い設計が可能となる。設計/生産力だけでなく、工場や生産ラインにおける品質の向上、稼働率を高めることが可能となり、サプライチェーン強化が期待できる。
(2)懸念事項と対応策
 デジタルツインで熟練作業者の作業がIoT技術に代替し、製造業の雇用損失が拡大する恐れがある。将来的に、製造業全体の人員縮小や競争力低下のリスクが存在する。
 対応策として、ナレッジデータベースを構築し、知識を形式知化するマネジメントシステムを運用する。知識を共有することで技術の属人化を防止し、技術力を継続的に向上する。
4.業務遂行において必要な要件・留意点
(1)技術者倫理
 デジタルツインによる設計/製造プロセスの見える化から、定型的業務を洗い出す。技術者倫理を高めるため、RPA(Robotic Process Automation)を導入して、定型的業務を合理化する。これは、技術士倫理綱領の1番「公衆の利益の優先」に相当する。
(2)社会の持続可能性
 デジタルツインの活用では、サーキュラーエコノミー型を志向する。社会持続可能性を高めるため、設計/製造/運用/回収再生サイクルの循環型を仮想化して、生産性を高める。これは、国際目標SDGsの目標12「つくる責任、つかう責任」に相当する。
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機械部門 必須科目Ⅰ-2
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現代では社会や人々の生活に多くの機械製品・設備が深く浸透している。そしてそれらが何らかの要因により故障・破壊すると、その影響が拡大し、社会や人々の生活に甚大な被害をもたらすこともあり得る状況である。したがって、今後の新たな機械製品・設備の設計開発に際しては、公益の確保の観点からも、機械製品・設備の持つ公共への影響を充分考慮して設計しなければならない。このような状況を踏まえ、以下の問いに答えよ。
(1) 故障・破壊により社会や環境に広範な影響を及ぼすような機械製品・設備を設計する場合、それらの持つ公共への影響を考慮すると、どのような課題を考えておかなければならないか、技術者の立場で機械技術全般に関する多面的な観点から課題を3つ抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ。
(2) 抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する機械技術者としての解決策を3つ示せ。
(3) 提案した解決策をすべて実行した結果、得られる成果とその波及効果を分析し、新たに生じる懸念事項への機械技術者としての対応策について述べよ。
(4) 前問(2)~(3)の業務遂行に当たり、機械技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点から必要となる要件・留意点について述べよ。
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答案1 機械設計
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1. 機械製品の故障時の社会・環境への影響と課題
(1) 信頼性の確立
 食塩電解槽は塩素と苛性ソーダを生成する。故障により漏洩すると人命に対して危険がある。機械製品が故障しないこと、故障しても安全側に機能することが課題である。
(2) 社会インフラへの影響の最小化
 食塩電解槽が生成する塩素は塩ビなどの基礎材料となる。故障した場合、市場の需要に影響を及ぼす。製品が故障してもすぐに復旧できることが課題である。
(3) 環境負荷への影響の最小化
 製品には寿命があるが、例えば、原子力発電所のように直接自然環境に影響を及ぼし廃棄できないものもある。製品ごとにライフエンド時に廃棄性やリサイクル性など最適なライフエンドシステムを構築することが課題である。
2. 課題に対する解決策
製品の故障・破壊時に人命に危害を及ぼさないことを最も重要と考え、解決策を以下に述べる。
 リスクアセスメントの実施
 製品の使用環境におけるすべての危険源を抽出し、リスクレベルの評価を発生頻度、影響度、検出度より行う。致命度の大きいリスクから優先度の高い対策項目とする。
 危険源の除去・リスクの低減
 危険源の除去か許容可能なリスクレベルになるまで繰り返しリスク低減策を行う。許容できないリスクがなくなるまで繰り返し対策を行う。
 残留リスクの公開
 設計において回避できないリスクについては、付属文書、警告文、標識などによりリスクを公開する。危険回避を使用者に委ねるための説明責任を果たすことも重要である。
3. 得られる成果・効果、及び懸念事項とその対策
 得られる成果・効果
①リスクアセスメントのデータベース化:リスクアセスメントの検討の流れをデータベース化することで次回の検討に活用でき、経験の少ない設計者もベテランの知見を活用できる。
②フェールセーフ設計:故障時も安全側に機能させることで、致命的な破損を回避することができ迅速な復旧が可能となる。
③リスクの公開:リスクを公開することで使用者も安全の範囲で使用することができ、不具合が生じた場合のフィードバックも呼びかけ易くなる。
 新たな懸念事項とその対策
①PDCAによりリスク低減を続けるなかで、対策による新規部品の採用が新たなトラブルを誘発する場合もある。信頼性の高い部品の標準化、流用を行うことも重要である。
②成功例だけでなく、不具合例もデータベース化しておく。検討時のリスクの大きさの判断や、評価するための視点を身に着けることができる。
③不具合発覚時はその製品だけでなく、同部品を使用した製品の抽出を行い、使用者に対して情報を公開する必要がある。
4. 技術者として必要とされる要件・留意点
(1) 新しい知識・技術の習得と活用
 PDCAサイクルでのトライ&エラーによる改善を繰り返すだけでなく、新しい知識・技術も取り入れる。
(2) 法令・規格の遵守
産業のグローバル化に伴い、その地域ごとの法令・規格を遵守する。
(3) 説明責任根拠の明確化
 説明責任を果たす場合の根拠には実際のデータ、最新のデータを用いる。 
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機械設計 Ⅱ-1-1
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 非破壊試験の方法を2つ挙げ,それぞれの原理,特徴及び主に適用可能な対象について述べよ。
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(1)放射線透過試験
①原理:透過させる放射線はエネルギーが強く波長の
短い電磁波である、X線やγ線を使用する。
原子量が大きい物質ほど、放射線を遮蔽する原理を利用する。
②特徴:ブローホールのような体積欠陥の検出に適し
ている。密着した免状欠陥の検出には不向きでる。
③適用可能な対象:鋳鉄材料試験体の内部に存在する、 
 気泡や巣穴の検査に適用される。また配管などの溶接部にて、溶接不良やスラグ巻込みを検出するために、適用される。
(2)磁気探傷試験
①原理:試験体を磁化させ、傷などの磁気的な不連続
 があると、磁束が漏洩し磁極が生じる。磁極から生じた磁束線にそって磁粉が模様のようにつながり、表面の欠陥を大きく示す。
②特徴:対象試験体表層部から微細な傷を発見するこ
とができる。また、割れ状の傷検出に感度のよい非
破壊壊検査手法である。
③適用可能な対象:圧力容器の経年劣化による、溶接
 部のひび割れ検査に適用される。また、配管材料バルブケーシングの外部表層部に、内部からの圧力にてできた、割れ状欠陥の検出に適用される。
機械設計 Ⅱ-1-2
回転する軸を支える機械要素として、すべり軸受の特徴と使用上の留意点を、転がり軸受と対比して説明せよ。
すべり軸受の特徴と留意点を以下に述べる。
1. 高速回転性能
すべり軸受は転がり軸受に比べ剛性が高いため高速回転に向いている。但し、オイルホイップによる振動が発生するので注意が必要である。
2. 始動性能
転がり軸受は摩擦力が小さく始動がスムーズであるが、すべり軸受は静止摩擦が大きく始動時の抵抗が大きい。動力伝達時の損失も大きくなるため、動力不足にならないように設計時に留意が必要である。
3. 潤滑剤の消費
転がり軸受はゴムシールやメタルシールドにより異物のコンタミ防止と共に潤滑剤の消耗量を少なく抑えられる。一方、すべり軸受の構造はシンプルであるが、すきまに油膜の形成が必要であり、適時給油を行う必要があるため消費量が多くなる。油膜切れによる焼き付き、異物のコンタミを防ぐために外部ろ過器を設け、強制循環を行う等の留意が必要である。
4. コンパクト構造
転がり軸受は軌道輪、転動体、保持器とそれを納める軸受箱から構成される。一方、すべり軸受は軸受箱が小さく、コンパクトな設計が可能である。
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機械設計 Ⅱ-2-1 
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設計初期段階で構造解析などシミュレーションを繰り返し実施し、製品の機能に合わせた過不足ない最適形状を実現する最適設計は重要である。 あなたは新製品開発のリーダーとして機械構造物の最適設計を行い、要求された機能を満たす製品の設計をまとめることになった。業務を進めるに当たって、下記の問いに答えよ。
(1) 開発製品を具体的に1つ示し、形状最適化を行うに当たって調査、検討すべき事項とその内容について説明せよ
(2) 最適設計を進める手順について、留意すべき点、工夫を要する点を含めてのべよ。
(3) 業務を効率的、効果的に進めるための関係者との調整方策についてのべよ。
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粘性塗料塗布ノズルの最適化設計について述べる
(1) 開発製品の形状最適化の調査・検討事項
検討事項①使用流量と圧力での塗布の均一性
指定の使用流量、圧力にて塗料を幅広方向に均一に塗布する必要がある。そのため、均一にエアロゾルが噴出するようノズル内の内部流路形状、流体シミュレーションを行い、流路形状を決定する。
検討事項②塗布厚みの制御方法、粒子、エアロゾルの細かさ
塗布厚みバラツキは数μmを要求される。   
吐出時の内圧の変化を調査し、ノズルスリット部のスプレー形状を検討する。
検討事項③メンテナンス性
塗料清掃時に着脱をする。 簡単に着脱でき、精度の復元ができる必要がある。
ワンタッチ形状を検討する。
(2) 最適設計を進める手順の留意点・工夫点
手順①ノズル先端形状設計
塗料に対する、耐腐食性と塗布時の圧力を考慮し、小型・軽量で簡易に加工できる材質を選択する。 
 手順③シミュレーションによる流路形状設計
 3D-CAD機能、FEA手法によるシミュレーションにより、CFD解析を行う。
 流路形状の清掃性を損ねない設計をする。
 手順④試作モデルの作成
 試作モデルを作成し、テストをする。
工夫点は付加製造技術、光造形式を採用する。 
手順②本体との接続部設計 
継手部をワンタッチ形状にするために、本体設計との規格を決める。また取外した際の液だれをなくすために、ゼロスピルカプラtmを検討する。
(3) 効率的・効果的に進める関係者との調整方策
関係者は2者以上。かつ「調整」のため不足と過剰でバランスを図る。すなわち過剰な要素を探し、そこを縮小して、その予算で不足している個所に移して最適化する。
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機械設計 Ⅱ-2-1 
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1. 形状最適化時の調査・検討事項
製品例として省エネ・低燃費を考慮するための自動車のフレームを取り上げ、調査・検討事項について以下に述べる。
 設計評価規範の選択
何をもって最適とするか設計評価時の判断基準を選択する。構想設計までの主観的・定性的な評価規範と基本・詳細設計までの客観的・定量的な評価規範がある。その中で、定性的には機能性(軽さ・強さ)、製造性や定量的には重量・強度・剛性を検討する。
 材料特性調査
剛性への引っ張り強さやヤング率、高い比強度のための比重、寿命に影響する耐薬品性・環境性について調査する。
 加工方法の検討
 軽くて強い3Dラティス構造を採用する場合、3Dプリンタを選択する。
2. 最適設計の手順と留意事項
 設計評価規範の決定
 企画時に設計仕様と同時に評価規範を決定する。定量的評価規範は便利であるが、本来の最適化の意図を見失わないように留意する。例えば、移動性として重量は満たすが、形状や重心により移動性を損なう場合がある。
 材料の決定
 軽くて強い材料としてアルミを選択する。この場合、線膨張係数が鉄系材料の2倍になるので熱応力、熱疲労に留意する。但し、アルミは疲労源がないので変動応力と疲労曲線による疲労解析によりき裂が発生しても十分安全に使えるように損傷許容設計を行う。
 加工方法に基づく形状設計
 CAE解析のトポロジー最適化により形状を決める。この場合、加工できない形状が計算結果とならないように、解析前に実際の製造方法を反映した形状を生成するために製造性制約(肉厚、抜き勾配、切削方向など)の条件を与える。従来の切削加工、プレス加工を活用することもできる。
3. 業務を効率的・効果的に進めるための調整方策
 デザインレビューの実施
 設計の各フェースにおいて、関連する部門が参画し、設計が目的に適合しているか確認、承認を行い次の工程に進んで良いか審査を行う。
 PLM/PDMの活用
 製品のライフサイクル全般の情報を一元管理することで、設計情報を部門を横断して同時共有する。コンカレントエンジニアリングを行うことで複数の部門が並列作業を行うことができる。
 テレビ会議
 場所に縛られず、海外の関係者とも直接意思疎通を図ることができる。             
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機械設計 Ⅲ-2
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労働力人口や企業の経営資源の減少に伴い、機械製品のコンポーネントをすべて内製するのではなく、その一部を外製することは一般的になってきている。特に新しい分野の製品を開発するに当たっては、自社のリソースでは対応が難しいコンポーネントを外製化し、外部の専門企業が持つ高い知見や技術力を自社のために活用できるのは大きなメリットとなる。
(1) 新しく開発する機械製品を具体的に1つ示し、その設計を担当する技術者の立場で、一部のコンポーネントを外製する場合の課題を多面的な観点から3つ抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ。
(2) 抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
(3) すべての解決策を実行しても新たに生じうるリスクとそれへの対応策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。
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1. 外製時の観点とその課題
製品例として水素を生成するアルカリ水電解装置を取り上げる。将来の世界的な水素の需要により各地域での外製時の課題を以下に述べる。
(1) 図面の一義性の確立
 機械製図の目的は意思の伝達にある。図面が曖昧だと形状のばらつきを助長し、品質、コストに影響を及ぼす。誰が見ても一つの解釈しかできないように図面に一義性を持たせることが課題である。
(2) 加工再現性の確保
 例えばエレメントにリブを溶接するとき、溶接長・ピッチは図面に指示されるが、加工者の技量によりばらつきが生じる。誰が行っても同じようにできるように治具等準備することが課題である。
(3) 追跡を可能とする外製ベンダーの記録
 外製ベンダーからさらに外製される場合がある。特に海外では不具合発覚後にその存在が明らかになる場合がある。必ず最終加工者を確認し、可能であれば設計者が現場確認も行う。出荷前に写真などの客観的追跡可能証拠を残すことが課題となる。
2. 課題に対する解決策
最も重要な課題として、加工や組み立て情報が集約された図面の一義性の確立を取り上げ、解決策を以下に述べる。
 幾何公差の使用
 寸法公差だけでも日本国内であれば加工者が精度よく製作し問題とならない場合が多いが、寸法公差だけでは基準面など曖昧になる。正確に正しい位置・形状に対して定義を与える幾何公差を適用する。部品検査時の測定方法も明確にすることができる。
 外製ベンダーのデザインレビュー参画
 デザインレビュー時に外製ベンダーも参画し図面の解釈について確認する。属人的な解釈にならないように地域ごとの複数のベンダーに参画してもらう。加工時の問題も事前に抽出でき、製造移管後の手戻りを減らすこともできる。
 三次元測定機と3DCADの活用
 図面への直接の指示ではないが、三次元測定機で測定した3Dモデルと幾何公差を反映した3DCAD図を比較することで図面からの成果物を精度よく確認できる。許容できないばらつきがある場合は、図面指示、または製作方法の見直しを行う。
3. 新たに生じうるリスクとその対応策
 寸法基準達成率の低下
 幾何公差の適用により姿勢、位置も考慮する必要があり基準を満たすことが難しくなる。最大実体公差を適用する。例えば、フレーム(穴)に対するノズル(筒)の取り合いの場合、ノズル径が公差より小さくなった分、中心軸の位置度公差をその分追加することができる。
 デザインレビュー時のセキュリティーの確保
 複数のベンダーが参画する場合、情報漏洩の懸念がある。どのタイミングで、誰に、どこまでの情報を開示するかをあらかじめ明確にしておく。新製品(アルカリ水電解装置)の場合は、既存製品(食塩電解装置)で実績のある従来ベンダーを利用することも考える。

 機能品質の検証
 図面の一義性により形状品質は確保できるが、更に機能品質確保への懸念が残る。使用環境、使う人の特性をバーチャルモデル化し製品の具体的な振る舞いや、検討に必要な環境情報も反映されたバーチャル環境の中で検証を行う。製品には3D図面の公差を用いることで、製造公差も含めた実機以上の検証を行うことができる。  
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材料強度・信頼性 Ⅱ-1-1
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問題文 長繊維の一方向強化材(プリプレグ)を積層して製造した炭素繊維強化プラスチック(CFRP)積層板を構造強度部材に利用する場合、材料強度・信頼性の観点から留意すべき点を2つ挙げてアルミニウム合金との比較として説明せよ。
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1.異方性:角度変化で積層して強度・剛性を確保する
1.1概要
 アルミニウム合金は、あらゆる方向で同一の強度・剛性を持つ等方性材料である。CFRP積層板は方向毎に強度・剛性が異なる異方性材料である。CFRP積層板の製造には、プリプレグの角度を変化させて、積層する必要がある。
1.2疑似等方性になるように積層製造する
 積層製造は、プリプレグ0°/±45°/90°の4方向をバランスよく配分して、疑似等方性にする。これによって、CFRP積層板の全ての方向に対する強度・剛性を確保する。
2.脆性破壊:集中荷重を避け検査で安全性を確保する
2.1概要
 アルミニウム合金は降伏点で原子間結合が転位し、塑性する延性材料である。CFRP積層板は原子間結合を超える荷重で破壊する脆性材料のため、塑性せず破壊の兆候を予測できない。外見上識別できない損傷発生の恐れから、局所的な集中荷重を回避する必要がある。
2.2超音波検査で内部損傷を検出する
 CFRP積層板の運用において、工具が落下・衝突するような局所的な集中荷重を感知した場合、超音波探傷検査で内部損傷を検出する。これによって、内部損傷からの脆性破壊に対する安全性を確保する。
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材料強度・信頼性 Ⅱ-2-1
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問題文 近年、大規模な自然災害や感染症の流行、治安上の問題などの要因で、原材料や部品などの中間財のサプライチェーン寸断の事例が増えている。サプライチェーン強靭化の対策の1つとして、既存の機械製品において、規格品や標準品の構造要素・部品の採用を進めることとなった。技術責任者として、材料強度・信頼性の観点で以下の内容について記述せよ。
(1)調査・検討すべき事項とその内容について説明せよ。
(2)業務を進める手順を列挙して、それぞれの項目ごとに留意すべき点、工夫を要する点を述べよ。
(3)業務を効率的、効果的に進めるための関係者との調整方策について述べよ。
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1.調査・検討すべき事項
(1)標準品の構造要素や部品の材料強度
 製品の安全性確保のため、採用した標準品の構造要素や部品の材料強度を調査し、強度不足部位の板厚増加による補強を検討する。
(2)構造要素の形状の剛性・変形量
 製品の安全性確保のため、標準品の構造要素に対する形状の剛性・変形量を調査し、剛性不足・変形量大の場合は断面形状の変更や補強を検討する。
(3)全体構造の補強
 製品の安全性と信頼性確保のため、代替品を採用した重量増加によって全体構造の強度を調査し、強度不足であれば補強を検討する。
2.業務を進める手順
(1)標準品の強度特性値算定
 強度の調査に必要となる許容応力、縦弾性係数、ポアソン比の材料物性値を汎用の標準スペックから入手する。
(2)材料変更に伴う補強設計
 標準品の採用が原因で、材料変更に伴う許容応力の低下から、構造要素や部品を板厚増加させ、作用応力を減少することで安全性を確保する。
(3)形状の構造設計
 標準品の採用によって、構造要素の剛性低下から変形量が増大することで、構造要素の断面形状の変更・板厚増加で剛性を高めて、安全性を確保する。
(4)全体構造の補強
 板厚増加や形状変更による重量変化から、製品全体構造を模擬したFEM解析を実施して、許容応力や変形量を超過した部位を補強する。FEM解析には経済的な線形解析でなく、材料の降伏や塑性変形を模擬できる非線形解析を適用し、解析精度を向上させる。
3.関係者との調整方策
(1)業務の平準化
 解析部門に3DCAD操作方法を習得するよう指導する。3DCAD操作方法は、時間がかかる作図法ではなく検図法の必要機能に注力し、設計部門のCAD指導を効率化する。CAD指導後、設計部門は検図作業の一部を解析部門へ移管し、設計作業を平準化する。
(2)業務の生産性向上
 設計部門に繁忙期の解析部門を支援するよう指導する。設計部門は、解析部門のためにCADを活用して、FEM解析用の形状データ(メッシュ)を作成する。解析部門は、受領したメッシュをベースにFEM解析を実行・評価し、解析作業の生産性を向上する。
 技術責任者として、調整(1)と(2)を実施することで設計部門と解析部門のニーズをくみ取る。両部門を結び合わせる提案で取りまとめて、業務全体を経済的に進める。
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材料強度・信頼性 Ⅲ-2
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近年では、機械や構造物の信頼性確保のため、限界状態を設定して要求性能を満たすよう設計することが求められつつある。あなたが新規製品の開発プロジェクトに材料強度・信頼性の技術責任者として新たに加わったとして、①この製品は不規則に変動する内圧を繰り返し受ける、②この製品に関しては企画や設計基準が整備されていない、③この製品が内圧による破裂や疲労破壊を起こした場合には多くの人命が失われるリスクがあることが判明し、高度な信頼性を保証することが必要になった、④限界状態での安全性を確保したいこと及び試験コストに制約があったことからあなたの前任者は実機疲労試験の荷重サイクル中に耐圧試験で要求される内圧を重畳する試験を実施していた、という状況を想定して下記の問に答えよ。
(1)この開発プロジェクトにおいて現状で検討しなくてはならない課題を多面的な観点から抽出し、それらの中から優先すべき3つの課題を示して具体的に説明せよ。
(2)上記の課題のうち最優先での検討が必要と考えられる課題について、複数の解決策を示せ。
(3) (2)で示した解決策を実行することがプロジェクトの進行及び最終的な結果に及ぼす影響について分析して解決策を1つに絞り込み、懸念される事項や残留するリスクへの対策とともに示せ。
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1.現状の検討すべき課題
(1)CAEによる設計の経済性向上
 前任者は安全側な条件の試験主体で開発を進めていて、設計プロセスが不経済であるため、CAEを導入した設計を検討する。シミュレーション技術と試験技術を組み合わせたCAEを導入する。
 CAEを活用した設計プロセスを適用することで、信頼性を確保しつつ、実施する試験を最小化して経済性も高める。
(2)修正グッドマン線図による疲労限界の確保
 不規則に変動する内圧は、応力比R=-1の両振りの応力状態となる恐れがある。製品の疲労強度の低下から破壊につながるため、疲労限界を確保する必要がある。
 内圧による応力振幅と平均応力から、修正グッドマン線図を使用して、下限界の疲労強度を満たしているか評価する。製品の疲労限界を確保して、製品の安全性を保証する。
(3)破損時のフェールセーフ対策
 破裂や疲労破壊の危険(非常事態)に対して、圧力を非常時に逃がし弁で放散できる構造を適用する。破裂した場合、人命を守るため、安全柵や防護ネットを設置してフェールセーフ性を高めて、周囲への飛散を防護する。
2.課題「CAEによる設計の経済性向上」の解決策
(1)製品の強度・寿命予測による安全性向上
①シミュレーション技術を活用する
 製品の設計構想/初期段階において、フロントローディング型でシミュレーション技術を活用する。数値計算を適用した衝撃損傷解析・疲労解析によって、製品の応力限界値や疲労寿命を予測して、信頼性を高める。
②少ない試験で合理的に安全性を確保する
 シミュレーション技術を活用しつつ、実現象を検証するための試験を実施する。試験では、実験計画法を適用して因子を絞り込むことで、材料試験や部分構造試験を削減しつつ、経済性を高めて安全性を確保する。
(2)部分詳細モデルでの経済性向上
 局所的な破壊部位の設計では、サブモデリング手法を適用する。全体構造モデルの変位・応力分布を利用した部分詳細モデルを活用して、経済性を向上する。
 部分詳細モデルの作成では、3DCAD形状から構造細部をモデル化し、応力集中部を特定することで信頼性も高める。
(3)デジタル画像相関法による信頼性向上
 運用時における高精度のひずみ値を得るため、デジタル画像相関法(DIC)によるひずみ測定技術を活用する。シミュレーション値だけでなく、測定から得たDICひずみ分布から精度を高めることで、製品の限界強度に対する信頼性を向上する。
3.解決策「製品の強度・寿命予測」の懸念事項と対策
(1)懸念事項:結果の過信による信頼性低下
 シミュレーション技術の活用で一定の成果を挙げた場合、何時もシミュレーションが正しいとし、結果に対して疑念を持たなくなる恐れがある。将来的に、設計モデル構築、要素・境界条件、接触解法、降伏硬化則の判断に誤りが存在しても気づかない可能性がある。
 設計の際、シミュレーション結果を過信することで、非安全側な解となり実機とシミュレーションとの結果が逸脱するリスクがある。信頼性が低下し、限界値の判断ミス、最悪の場合は製品破壊につながる危険性がある。
(2)リスクへの対策
①V&Vによる品質確保
 実施した試験とシミュレーションのV&V(検証と妥当性確認)の機会を定期的に設ける。実現象とシミュレーションの比較から、確かさや品質を評価しリスク回避する注意力を養うことで、信頼性確保につなげる。
②設定条件の標準化
 入力条件の判断ミス予防のため、学術理論が難解なシミュレーションはテンプレートファイルを準備して、設定条件を標準化する。各シミュレーションを実施する際、あらかじめ条件設定済のファイルを運用することで、均一な品質を確保する。
(1)懸念事項:技術力不足による信頼性の低下
①学術理論が難解である
 シミュレーション技術の習熟には高度な専門知識が必要であり、若手技術者をはじめ、育成に時間がかかる。技術者の経験不足から、形状の近似化(要素の種類・境界条件)、線形と非線形、陰解法と陽解法、接触解法、降伏硬化則の設定を見誤る可能性が高い。
②信頼性が低下して破壊する危険性がある
 設計する際のエンジニアリングジャッジの判断力が不足し非安全側な条件を適用することで、実機とシミュレーションとの結果逸脱の恐れがある。信頼性が低下し、最悪の場合は製品破壊につながる危険性がある。

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産業機械、加工 Ⅱ-2-1
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Ⅱ-2-1 加工プロセスは環境に負荷を与えている。切削を例に挙げると電力消費に加えて切削液や洗浄液等を含めた廃棄物の処理による環境負荷も考える必要がある。あなたが携わっているプロセスについて環境負荷の要因分析、定量化、及び軽減計画を策定することになり、この業務の担当責任者に選ばれたとして、下記の内容を記述せよ。
(1) 調査、検討すべき事項とその内容について説明せよ。
(2) 業務を進める手順を列挙し、それぞれの項目ごとに留意すべき点、工夫を要する点を述べよ。
(3)業務を効率的、効果的に進めるための関係者との調整方法について述べよ。
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答案1 専門事項 樹脂金型設計
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プラスチック成形金型設計部門の責任者として、プラスチック射出成形加工プロセスについて述べる。
1.調査、検討すべき事項
(1)工程内の材料ロス、廃棄方法
 射出成形加工では成形品以外に成形品が安定した寸法となるまで捨てショットと呼ばれる成形作業を行う。また成形開始前に成形機のシリンダ内に蓄積した溶融樹脂をパージと呼ばれる作業により排出する。捨てショットとパージの廃棄樹脂量を調査する。
(2)使用樹脂材料、成形品形状
 環境負荷の低い樹脂の適用率を調査する。また、成形品の過剰強度設計により成形品の厚肉化、重量の増大が発生していないか調査する。さらに、射出成形工法の考慮不足、具体的には成形品の抜き勾配不足による離型不良、成形品肉厚の不均等肉厚によるひけ、反り等の成形不具合による成形品の廃棄量の調査を行う。
(3)インフラの使用量
 樹脂を溶かすために使用するヒータ電力、金型冷却用チラーに使用する水の使用量の調査を行う。
(4)製造条件のロバスト性の確認 
成形条件の良否は技能者の技量に依存している。同じ成形条件でも樹脂材料のロット毎の特性ばらつき、機差、外気温などの外乱、内乱により成形品の品質が変わる。内乱、外乱に強い裕度の高いロバスト性のある成形条件となっているか調査する。
2.業務遂行手順とそれぞれの留意点、工夫点
(1)廃棄される樹脂の測定
 廃棄樹脂量は季節、樹脂ロットにより異なる可能性があるので、季節を通じてデータ取りを行う。樹脂ロット、機差による廃棄樹脂量の差異発生要因を分析し、廃棄が少ない条件の特定を行う。
(2)使用樹脂材料、成形品形状の確認
 製品設計寿命を確認し、過剰品質になっている場合は強度解析により、最適化を行う。最適化の際は強度のみでなく、生産性が考慮されているか留意する。
(3)インフラの使用量
 電力、冷却水使用量を把握する。電力、冷却水使用量把握はセンシング技術を活用し、データの分析を行いやすいようにする。チラーなど複数の成形機に共通使用されるものは個別に把握できるようなデータ取りに留意する。
(4)製造条件のロバスト性の確保
 金型へのセンサ導入、IoT化により製造条件と製造品質の関係を定量化することで属人性からの脱却を図る。
3.業務を効率的に進めるための関係者との調整方法
 加工プロセスの環境負荷は製造部門だけでなく、製品の企画、開発段階、つまり製品の仕様決めの影響を受ける。営業、資材、設計、製造、品質管理部門と連携し、企画段階で環境アセスメント活動を行う。
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産業機械、加工 Ⅲ-1
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Ⅲ-1 自社で設計・製造を行っている1つの工業製品に対し、設計部門から以下の検討依頼が来た。「鉄系材料を用いている今までのフレーム構造体に対し、軽量化を図るため、従来材と次の候補材料どれか1つとの組み合わせによるマルチマテリアル化を進めたい。候補材料は高張力鋼、アルミニウム、マグネシウム、CFRPである。」あなたが生産技術者としてこの検討を行う場合、以下の問いに答えよ。
(1) これらの候補材料を比較しマルチマテリアル化を検討するに当たり、生産技術者としての立場で多面的な観点から3つ課題を抽出し、それぞれの観点を明記したうえで、課題の内容を示せ。
(2) 抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、候補材料を1つ提示したうえでその課題に対する複数の解決策を示せ。
(3)すべての解決策を実行しても生じうるリスクとそれへの対策について、専門技術を踏まえた考えを示せ。
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答案1 専門事項 樹脂金型設計  S
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1.マルチマテリアル化にあたり、QCDSE及び4Mの観点から3つの課題を抽出する。
 マルチマテリアルの対象材料は高張力鋼とし、従来材料は板金加工に一般に使用されるSPCC鋼板とする。
■ここまでの↑前提、絞り込みはされなくてもかまいません。
(1)加工方法の確立
 従来材と高張力鋼ではいくつかの特性の違いがあるが、代表的な特性の違いとして引っ張り強度がある。
引っ張り強度が異なると、プレス加工時の曲げ角度に変化が発生する。SPCC鋼板と比較して高張力鋼板はおおよそ500MPa以上の引っ張り強度がある。引っ張り強度は曲げ、絞りなどのプレス加工性に影響し、スプリングバック(曲げ工具より角度が開く)、スプリングゴー(曲げ工具より角度が狭くなる)といった事象が発生しやすい。例えば従来材と高張力鋼板を溶接し、一体化して曲げ加工する場合、スプリングバックあるいはスプリングゴーの度合いの差による角度の違いから製品として要求される角度が出せない、または溶接部に応力がかかることによる破壊が課題となる。
(2)検査方法の確立
 新たな材料の使用、また加工を行う場合には加工の確からしさ、加工精度を検証するため、検査方法を確立する必要がある。高張力鋼板は引っ張り強度が高く伸び量が少ないため、特に絞り加工時に割れが発生する可能性がある。表面上に見える割れであれば良いが内部の割れや微小割れを発見するため、CTスキャン、磁気探探方法を使用し、その合否基準(しきい値)を確立しておく必要がある。また従来材と高張力鋼板の接合面、界面には単一材料での加工では発生し難い不良が発生する可能性が高いので検査方法の確立が課題である。
(3)ロバスト性の確保 
 材料には製造に起因する特性のばらつきがある。従来材でも特性のばらつきはあるが、引っ張り強度が高い高張力鋼板は、引っ張り強度の違いが曲げ角度、絞り性に与える影響が大きく、ばらつきを吸収できる製品形状、設計思想の確立が課題である。
2.抽出課題のうち、最も重要と考える課題
 マルチマテリアル化には、テーラドブランク法など、必要な部位のみの強度を高め、製品機能の向上、コスト低減を目的とすることが多い。その実現のため、加工方法を確立することが最も重要な課題と考える。
(1)解決策1:サーボプレスとロボット技術の活用
従来材と高張力鋼板を組み合わされた鋼板は、特に高張力鋼板の引っ張り強度の高さから絞り加工、曲げ加工において、一度に曲げ加工、絞り加工を行うのでなく、複数回に分けて行うことが多い。それは加工部が加工硬化し、延性が低下することによる破れを防止するためである。そのため、加工速度を任意に制御することができ、また振り子のように加工部位を往復運動することのできるサーボプレスを使用し、低速度、高エネルギーで加工硬化を抑制しながら、絞りを行う。
また、複数の金型を用意し、加工方向を逆転しながら
加工を行うことで、バウシンガー効果を利用し、低いエネルギーでの加工を行う。複数の金型間の被加工材の移動はロボットを使用する。
(2)析技術(CAE)の活用
 曲げ及び絞り加工には金型と呼ばれる専用の工具を用いる。金型の構造、特に加工に関わる曲げパンチとダイ、絞りパンチとダイの形状設計はベテラン設計者の知識に依存した属人性の高いものである。またベテラン設計者がいない場合は複数のパラメータのパンチ、ダイ形状を設計し、トライ&エラーを繰り返す。これを防止するため、板金加工の伸び、スプリングバック率を机上シミュレーションできるCAEを活用する。
(3)生産設計によるフロントローディングの実施
 高張力鋼板は、これまで述べた通り曲げ加工時にスプリングバック、スプリングゴーといった要求形状の実現を阻害する事象が発生する。また、絞り加工においては割れなどの機能実現を阻害する事象が発生する。
これらを防止するため、製品設計の上流、例えば詳細設計の前の構想設計の段階で製品設計部門と生産技術部門が連携し、コンカレントエンジニアリングを行う事で、加工工程のネックとなる形状の変更、従来材と高張力鋼板の接合部のクリアランスを確保できる形状設計などを行う。 
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