技術士試験問題と模範解答と解説 2021年 令和3年


生物工学部門模範答案
選択科目 
生物機能工学  Ⅱ-1-4 Ⅱ-2-2 Ⅲ-1
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生物機能工学  Ⅱ-1-4
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「メタゲノム解析」に関する技術的特徴について説明し、有効な活用事例を2つ例示せよ。
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答案1/1 専門事項:細胞工学
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1.技術的特徴
メタゲノム解析の技術的特徴は微生物を分離・培養せず、直接ゲノム配列を解読することである。これは次世代シーケンサーによる環境中の16s rRNA遺伝子の直接解読及び、バイオインフォマティックスにより解読配列の統合・比較が可能になったためである。この解析の意義は、環境中の既知微生物種だけでなく、未知微生物種の同定も可能にしたことである。
2.活用事例
2.1 牛の第一胃内微生物のメタゲノム解析
 牛の第一胃内微生物比率が飼料の利用効率及び、乳量や肉質に影響を及ぼす。そこでメタゲノム解析で得られた微生物比率と乳量や肉質との相関関係を検出し、牛の飼育合理化に利用されている。特にメタゲノム解析で検出した飼料の利用効率を高めるS.cerevisiaeを投与するなどして、更なる肉質改善を図る。
2.2 腸内細菌のメタゲノム解析
ヒト腸内の微生物種の複数種は大腸がんの有力因子である。このため糞便内微生物のメタゲノム解析を行い、早期大腸がんに出現する微生物存在比率を検査する。このとき大腸がんを誘導させるFusobacterium属を大腸がんマーカーとして検出する。従来の大腸カメラ検査より肉体的負担が少ないため、大腸がんの早期検出法として活用されている。
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生物機能工学 Ⅱ-2-2
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ある農作物に対してゲノム編集技術を用いて品種改良を行うプロジェクトの担当責任者として業務を進めるに当たり、下記の内容について記述せよ。
⑴調査、検討すべき事項とその技術的内容について説明せよ。
⑵業務を進める手順について、留意すべき点、工夫を要する点、を含めて述べよ。
⑶業務を効率的・効果的に進めるための関係者や、法的手続きなどを挙げ、調整方策について述べよ。
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答案1/1 専門事項:細胞工学
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⑴調査・検討事項
1.市場ニーズに適した表現型
 市場ニーズに適合した作物を作成するため、品種改良を行う。このとき、市場ニーズに適した表現型(例:甘さ、結実量、日持ち、栄養等)を調査する。更に、調査結果より得られた表現系に関与する遺伝子について検討する。
2.複数箇所の一括ゲノム編集
ゲノム編集技術を用い、求める表現系に適した品種改良を一括で行う。そこで、表現系を支配する遺伝子配列を調査し、複数のsgRNA配列を含むベクター及びCas9ニッカーゼ(ダブルニッキング法)の作物への導入方法を検討する。
3.細胞の選抜
 ゲノム編集技術による品種改良を行った作物のうち、求める表現系を有する作物を選抜する。このため、目的の表現系に適した栽培方法を調査し、ゲノム編集された植物細胞の選抜方法を検討する。
⑵業務を進める手順における留意点・工夫点
1.対象となる遺伝子の抽出
 求める表現系を品種改良より得るため、ゲノム編集の標的となる遺伝子配列を取得する。このとき、効率的に複数の遺伝子配列を取得する方法として、NCBI geneやパスウェイデータベースを使用する。
2.ベクター型sgRNAの増幅
ダブルニッキング法により作物のゲノム編集を実施するため、植物細胞に複数のsgRNAを含むベクター及びCas9ニッカーゼを導入する。このときsgRNAを含むベクターを大腸菌で増幅させる。このとき、ベクター内にtracrRNAの反復配列を含むため、大腸菌内で組み換えが起こりやすい。そこでrecA・sbcB遺伝子を共に欠損した大腸菌を使用し、大腸菌内での組み換えを回避する。
3.植物細胞の選抜
ゲノム編集された作物をPCRにより選抜する。標的遺伝子がGC配列を多く含む遺伝子である場合、Tm値が上昇しPCR反応が困難となる。このときPCR反応液にDMSO・ベタインを添加し、Tm値を下げPCRによる選抜を効率化する。
⑶業務を効率的・効果的に進めるための調整方策
 複数遺伝子を一括でゲノム編集する場合、複数のsgRNA配列を含むベクターを正確かつ迅速に構築する必要がある。そこで開発者に対して合成遺伝子のアウトソーシングを活用したベクター構築を申し入れる。このとき合成遺伝子の活用が期間の短縮化、及びコストダウンとなることを併せて説明する。
また、複数遺伝子を一括にゲノム編集を行う場合、作物の生育阻害も懸念される。そこで開発者に対し効率的な生育法を短期間に構築するため、実験計画法による生育条件(温度、培地、日照条件等)の絞り込みを行うよう申し入れる。
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生物機能工学 Ⅲ-1
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国連の持続可能な開発目標には、飢餓に終止符を打ち、食料の安定確保と栄養状態の改善を達成するとともに、持続可能な農業を推進することが掲げられており、ゲノム工学や食品機能工学、微生物・動植物細胞の育種技術などの生物機能工学技術を用いてこの目標を達成することが望まれている。
⑴上記開発目標を達成するために利用可能な生物機能工学技術を複数挙げ、技術者としての立場で多面的な観点から課題を抽出し分析せよ。
⑵抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する複数の解決策を示せ。
⑶解決策に共通して新たに生じうるリスクとそれへの対策について述べよ。
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答案1/1 専門事項:細胞工学
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⑴持続可能な開発目標達成のための課題
①未知遺伝子配列取得法における課題
持続可能な開発目標達成のため、未知遺伝子を活用する。
一般に未知遺伝子配列の取得には、遺伝子を包括的に解読し、バイオインフォマティックスによるアノテーションを記載するため高コストとなる。そこで、標的とする機能が定まっている場合、類推される機能選択的に未知遺伝子をコードするmRNAの精製及び、次世代シーケンサーによる解読を行い低コスト化する。
②表現型探索法における課題
候補遺伝子の中から有用な表現型を発揮する遺伝子を抽出する。
遺伝子機能の確認には、遺伝子数に応じて動植物の飼育を行う。だがこの方法では飼育数が増大し高コストとなる。そこで、レポーターアッセイを用いた遺伝子スクリーニングにより、事前に遺伝子の機能を解析し低コスト化する。
③致死性を示したゲノム編集法における課題
ゲノム編集法により候補遺伝子の導入及び破壊を行い、有用生物を得る。
だが標的遺伝子を破壊したとき致死となる場合が存在し、その場合、生物の繁殖ができない。そこで、致死性回避のため、エピゲノム編集法などを用い、空間的・量的に遺伝子発現量を制御するゲノム編集法を構築する。
⑵最重要課題及びその解決策
◯最重要課題:「致死性を示したゲノム編集法における課題」を選択する。
解決策①:コンディショナルゲノム編集
ゲノム編集法により全身で標的遺伝子を破壊した場合、全身で標的遺伝子が機能しなくなるため致死性になるケースがある。
解決策として目的組織でのみ機能するプロモーターの下流でCas9遺伝子及びsgRNAを発現させる(例:筋肉で機能するmyoD プロモーターの下流でCas9及びsgRNAを発現)。これより目的の組織でゲノム編集が起こり、目的とする表現型を得つつ致死性を回避する。
解決策②:エピゲノム編集
 全身で標的遺伝子を破壊した場合、全身で標的遺伝子が機能せず致死性になるケースがある。
解決策としてエピゲノム編集によるDNAメチル化を挙げる。具体的にはDNA切断活性を有しないdCas9に、転写抑制因子KRAB及びDNAメチル化酵素DNMT3を融合する。この融合タンパク質と標的遺伝子へのsgRNAにより、標的遺伝子DNAをメチル化して発現量を低下させる。これより完全な遺伝子欠損が回避でき、目的の表現型を得つつ致死性を回避する。
解決策③:RNA編集
 ゲノム編集法により標的遺伝子を破壊した場合、全身で標的遺伝子が機能せず致死性を示す場合がある。
解決策としてCRISPR-Cas13により標的遺伝子mRNAをノックダウンする。またCas13及びsgRNAを、組織特異的プロモーターを用いて発現させ、局所的に遺伝子をノックダウンすることも可能である。これらの方法を用いることにより、標的遺伝子のmRNAの発現量を低下させ、目的の表現型を得つつ致死性を回避する。
⑶解決策に共通して新たに生じうるリスクとその対策
①リスク
ゲノム編集生物が大量に発生し流出した場合、特定の種がゲノム編集生物への置換、また野生型の種の絶滅を引き起こし、生態系に悪影響を及ぼすリスクが存在する。
②リスクへの対策
 繁殖に関する遺伝子を品種改良時に同時に破壊し、生態系へのゲノム編集生物の拡散を防止する。
雄の場合、精巣形成に関与する遺伝子Sryを、また雌の場合では着床に関与する遺伝子Sox17をコンディショナルゲノム編集でそれぞれ破壊する。これより、仮に生態系にゲノム編集生物が流出し、野生型の生物と交配を行ったとしても繁殖が阻害される。この方法を用いることで、ゲノム編集生物の生態系への拡散が防止され、生態系での品種改良生物への置換や、野生型の種の絶滅を回避できる。
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