(解答例)
リスク対応を必要とする業務の概要
業務は平成12年度に○○県○○市の丘陵地に計画された延長900mの広域農道トンネル工地質調査である。
トンネル区間の地質構造および強度特性を把握し地山分類を行い、支保工および掘削工の選定を行うことを目的とした。
業務のリスク管理上の特徴は以下のとおりである
@
業務は山岳地での重量物運搬、発破作業、ボーリングマシンの運転等の危険な作業を伴う。
A
トンネル坑口付近は酪農家に近接し、多量に火薬を用いる弾性波探査は乳牛への影響が懸念され、周辺への影響が少ない探査方法選定を必要とした。
B
調査地には希少植物が分布する地域があり、機械の移動・搬入が制約される条件にあった。
C
住民が現地作業に対して、理解不足や不安からくる誤解・デマなどリスクの顕在化が予想された。
D
社会的受容を得るために、利害関係者に社会環境保全の取り組みを説明する責任があった。
私は業務の管理技術者としてプロジェクトマネジメントを実施し、以下のリスクアセスメントを実施した。
・重大事故を頂上事象とする、中間事象および原因事象を抽出しFT(フォールトツリー)を作成した。
・
ボーリングや発破作業に関するあらゆるリスクを特定して、事故の発生確率、発生時の被害規模を事象結果と金額により定量的に検討した。
(2)4タイプそれぞれに相当する因子
(2)-1レッドゾーン
レッドゾーンは以下のリスクを最重要課題として特定した。
@ 発破やボーリング作業による人身事故は被災者への補償や社会的信用の失墜、営業停止処分など組織資産を損失し、企業価値に大きく影響を受ける。
A工期の遅延・設計ミスなどは顧客への信用失墜など顧客資産に大きな影響を受ける。
(2)-2イエローゾーン
イエローゾーンは以下のリスクを特定した。
@大規模地震などの自然災害発生は頻度が極めて低いが物質資産に大きな被害を受ける。
A岩盤崩落、落石などは、作業員・設備資産に大きな影響を受ける。
(2)-3グレーゾーン
グレーゾーンは以下のリスクを特定した。
@資機材の搬入時に希少植物を損傷する。
A弾性波探査の発破使用による乳牛への影響
B理解不測や不安などからくる誤解やデマなどリスクが顕在化する。
(2)-4グリーンゾーン
グリーンゾーンは以下のリスクを特定した。
@問題とならない軽微な事故(軽い転倒など)。
A軽微な自然災害
(3)リスク対応
(3)-1レッドゾーンリスク
@あるべき判断
業務では重大労働災害・設計ミスの発生を最重要課題とした。これら頂上事象が発生すると組織資産に重大な影響を及ぼすリスクに対して、最優先でリスク対策を実施した。
重大事故が発生した場合の損失を考慮して、安全性向上にコストを集中すること、多重チェック体制によるミス発生のリスク低減することがあるべき判断である。
A実施すべき対応
・課題の抽出は少人数のグループで自由に意見の出せるブレインストーミングや事例調査・インタビュー・アンケート調査を活用して、特性要因図により行った。
・
安全装置などの設備の充実や作業内容の見直しをおこなった。
・
機械操作のヒューマンエラー防止は、安全訓練と装備の整備によりリスク低減を図った。
・工程管理はPERTを採用し、クリティカルパス上にあるボーリング作業が、後続作業に影響がない様に実働班を増やして、工程の短縮化に努めた。
・これにより現場作業員の負荷低減で、事故発生のリスク低減ができた。
・社内LANフォルダに文書・表計算フォーマットを作成して、情報の共有化をはかり、業務の効率化を達成した。
・入力ミスや転記ミスのリスクが特定され、多重チェック体制をとることによりリスク削減ができた。
・多重チェック体制は人員配置増になったがミスの未然防止ができたため、トータルコストは低減できたと考える。
(3)-2イエローゾーンリスク
@あるべき判断
岩盤崩落や大規模な自然災害などの頻度が極めて少ないリスクは、対策に費用がかかり過ぎるため、無駄になりリスク保有ないしリスク移転対策があるべき判断である。
A実施すべき対応
・不測の事態に備えリスク移転(保険加入)を図った。
・岩盤崩落や大規模自然災害などの頻度が少ないリスクは保有した。
・緊急事態に備え危機管理を検討して、迅速な対応が出来るよう情報収集、伝達、処理方法を整備した。
(3)-3グレーゾーンリスク
@あるべき判断
弾性波探査による発破、希少植物の保護、地元住民への説明責任は、災害規模、発生率がリスク基準を超えるためリスク低減対策をすることがあるべき判断である。
A実施すべき対応
・
酪農家近接個所では、弾性波探査よりも騒音、振動の少ない探査方法(レイリー波探査)に変更してリスク削減を図った。
・ 希少植物が分布する地域の資機材の搬入は、植生区域を迂回し重大事故のリスクを回避した。
・理解不足や不安からくる誤解やデマなどリスクの顕在化を防止するために、地元説明会を実施した。
・説明会では、調査の目的・内容・期間・立入り区域など、プレゼンテーションソフトを利用し住民が容易に理解してもらえるよう工夫した。
・これら地元説明会やチラシ広報活動により環境アカウンタビリティを果たした。
(3)-4グリーンゾーンリスク
@あるべき判断
軽微な事故・災害はリスク保有としたが、リスクの顕在化を防止するため、安全に対する日常的活動は継続して実施した。
A実施すべき対応
・
ヒヤリハット・定期点検などの未然防止活動を実施し重大事故の発生を予防した。
以上、総合技術監理は5つの管理を独立して行うのではなく、互いに有機的に関連づけて矛盾の解決・調整を行うための管理技術を身に付ける必要がある。以上
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