総合技術監理 予想問題 3-2 「2007年問題

総合技術監理問題 3−2 2007年問題

 

はじめに

日本の多くの産業分野で「団塊の世代」の退職に伴う「2007年問題」が懸念されている。この団塊の世代が退職した後に起きると想定される問題としては「品質の低下」を危ぶむ回答が最も多く次に「人員の不足」、「ノウハウの流出」が続いている。この理由としては、「次の世代に技術や技能などが引き継がれていない」とか、「技術力や技能の高い人材が団塊の世代に集中している」が多くあげられている。

 実際に「品質の低下」、「業務の遅延」、「事故の増加」などが生じており、ある建設現場管理者の報告では次のようなこともあった。

l         「細かい納まりを下請け任せにしていた結果、瑕疵を生じてしまった」

l         「工程計画や品質管理が不十分でコンクリートにひび割れが生じた」

l         「若手3人に土留め工事を任せていたら、信じられないようなミスをして重大事故が発生した」

 

2007年問題の原因

こうした2007年問題が発生した原因として「団塊の世代の技術者たちは、事故や災害などを自ら経験してきた。ところが、事故や災害が減り、事例や実体験に基づいた指導が出来ない社員の比率が多くなってきた」という意見も寄せられている。

 実際に技能工に目を向けると、左官工やクレーン工など高齢化が進んでいる専門工事の分野は少なくない。工事の小型化やコスト削減によって、元請けの建設会社などが現場に複数の技術者を配置できず、若手所長が一人で現場を切り盛りする光景も珍しくなくなっている。

 さらに、ベテラン不足の問題は設計や監理の分野でも決して少なくない状況がうかがえる。業務量の増加や業務範囲の拡大など技術者が置かれている環境は厳しくなっている。設計や監理に携わる技術者も本来の設計業務や監理業務とは別の仕事に追われている状況にあり、こうした事情がトラブルを招く背景となっている。

 

■現時点での2007年問題対策についての問題点

2007年問題対策として、すでに「定年退職した人材の再雇用」や「図面や失敗事例など過去の業務で得られたノウハウを収集する」などの取り組みがされている。しかしながら次のような問題が指摘されている。

@     ベテランと若手が一緒に働くような組織にしているものの、若手の吸収力不足やベテランの教育力不足によって、思うようにノウハウが伝達されていない。

A     技術継承のためのシステムを構築して、運用を始めたが、書き手の表現能力やモチベーションの差も影響するため、言葉や図面だけでベテランの技術や技能を残すことは難しい。

B     ベテラン技術者の多くは「私の経験した技術やノウハウはどれも大切だ。すべて次の世代に残す必要がある」というような考えには至っていない。

C     設計業務の内容や設計に求められる技術流域は拡大し、しかも技術は進歩するため、ベテランとはいえ、昔ながらの技術をそのまま伝えても無意味な場合もある。

 

■問題

2007年問題のこうした状況を考えて、技術伝承をスムーズに行い、品質の維持、業務の期日内完了、事故防止の徹底などを、各自の業務分野で行うには、どのように進めるべきか。

(1)      各自の業務で「2007年問題」となり得る状況を600字以内で略記せよ。

(2)      上記(1)の状況を解決するため、2つ以上の総合技術管理の管理分野について、それぞれ@伝えるべきノウハウを選定し、その理由を述べ、A実施すべき対応を述べよ。ただし、想定する期間は今後5年以内とする。1200字以内

(3)      上記(2)同様に、今後5年〜10年の期間を想定した場合の@伝えるべきノウハウを選定し、その理由を述べ、A実施すべき対応を述べよ。ただし、この2つ以上の総合技術管理の管理分野とは(2)の場合と重複してはならない。1200字以内

 

 

参考資料

ベテランが持つ技術や技能のうち、特に重要だと感じる項目についてのアンケート結果

「過去の失敗やトラブルの経験などに基づくリスク回避能力」

「書類や図面だけでは表現が難しい技術上の勘やコツ」で61%だった。

 このアンケート調査に寄せられた意見のなかには、2007年問題を技術継承などの好機としてとらえようとする前向きな意見も少なくない。例えば、ゼネコンに勤める30代の回答者は次のような意見を寄せている。「団塊の世代は10年以上にわたって、最前線で頑張ってきた。これから若い世代に業務を委ねることによって、今までの常識を覆すチャンスが生まれる」。

 いっぽう、団塊の世代が大量に退職するといっても、すべての人材が失われるわけではない。雇用延長やOBの再雇用など、すでに手立てを講じている組織もある。2007年問題はそれほど大きな問題にならずに済むかもしれない。だが、一朝一夕に伝えられる技術はあまりない。建設産業に携わる技術者は2007年問題を契機にして、残すべきノウハウを改めて整理し、次の世代への地道な指導を積み重ねていくことが大切だ。

2007年問題】6割の技術者が書類や図面だけでは表現できない勘やコツを重視――意識調査の結果・第6

2007年問題】伝承への取り組みが「うまく機能しない」との意見も――意識調査の結果・第5

2007年問題】施工段階での問題を指摘する声が4割に――意識調査の結果・第4

2007年問題】ベテラン不足が実際のトラブルに直結?――意識調査の結果・第3

2007年問題】品質の低下や事故の増加のほかにノウハウ流出も危惧――意識調査の結果・第2

2007年問題】約7割の建設関係者が大量退職を懸念――意識調査の結果・第1

(解答例)

(1)私の業務で「2007年問題」となり得る状況

私は、○○県の公共事業を発注する技術責任者として、次のような「2007年問題」に直面している。

土木部の技術職員は、今後5年間で21%、その後の5年間で20%のベテラン技術者が退職する。

このような状況の中で、土木部の若手技術者は、 @積算根拠が不確かで、設計・積算にミスが多い。A技術力が不足し、現場で適切な安全管理の指示や監督ができない。B地元への説明不足で、着工後にトラブルが発生し工期が遅れるなど、品質の維持、現場の安全管理、工期の遵守等で問題を抱えている。

これらの原因としては、@ベテラン技術者は、設計積算や現場管理を経験してきたが、彼らの技術や知識が若手技術者に十分に伝わっていない。A若手技術者は、事業費の減少や業務委託の増加で、自ら現場で安全管理を行う機会が減少している。B説明責任が強く求められるようになり、事業評価やパブリックコメントなどは行っているものの、地元住民と対人的なコミュニケーションが不足しているなどが考えられる。

ものづくりは人づくりである。若手技術職員を育成しなければ、県民の負託に応えたものづくりは行えない。以下、若手技術職員に伝承する技術について、ベテラン技術職員が蓄えてきた技術や知識内容が生かせる0〜5年を短期、彼らの技術や知識内容が大きく変化する5〜10年を長期に分けて記述する。

(2) (1)を解決するために短期的に伝承すべきノウハウ

(2)-1経済性管理

@高い品質が確保できる技術の継承

(理由)公共工事で品質の高い構築物を生産するには、設計・積算、施工管理、完了検査の各段階で品質確保しなければならない。これらの技術は、従来の品質管理技術の活用で高い品質確保ができるので、実績のあるベテラン技術者を選抜して技術伝承する。

A実施すべき対応

設計・積算では、ミス防止の品質目標を立て組織全体で継続的に品質管理すべきである。そのためには、ISO9000sなどを導入し、グループ単位でPDCAを行わせる。その際、ベテラン技術者が経験した設計条件の見落とし、設計図と計算の不整合など、失敗事例を基に優先順位を付けたチェックリストで行わせる。

施工管理では、作業手順毎の資材管理と中間検査、工程管理等で品質管理すべきである。それには、設計図や材料仕様書による設計基準値、品質規格の検査、クリティカルパス等による進行管理を行わせる。

完了検査では出来高管理で品質管理すべきである。それには、X−R管理図で設計基準値を管理させる。

施工管理や完了検査では、実績を積んだベテラン技術者の品質管理技術を生かすことができる。このため、これらはベテラン技術者を再雇用し、現場でOJTを行うことで技術継承できる。

(2)-2安全管理

@信頼性のある安全管理技術の伝承

(理由)公共工事の安全管理は、労働災害や事故防止に努め、快適な作業環境を維持すること。又、発生した災害に適切な対策が必要である。これらの技術は、従来の安全管理技術で信頼性が確保できるので、実績のあるベテラン技術者を選抜して技術伝承する。

A実施すべき対応

現場の労働災害や事故防止では、安全衛生目標を立て、災害や事故の危険要因を特定し、それらの低減対策を継続的に実施し、改善すべきである。これらの安全管理は、ベテラン技術者を再雇用し、現場でOJTを行うことで技術継承する。それには、施工計画の作業手順毎に危険防止措置を取らせる。特に、作業員の転落防止や建設機械の稼働による事故防止が重要である。これらの措置は、定期的な安全パトロールによる改善で、ヒヤリハットを無くさせる。

快適な作業環境面でも、目標に基づいた労務管理や健康管理を継続的に実施し、改善すべきである。それには、突貫工事で労働疲労が蓄積しないよう作業時間や作業強度、メンタルヘルスに配慮させる。

緊急時の措置は、管理体制の役割と権限、連絡体制などを明らかにしたマニュアルに基づき、必要な人や機械を投入して解決させる。又、再発防止策を立て再教育することで安全管理を向上させる。

 (3) (1)を解決するために長期的に伝承すべきノウハウ

(3)-1情報管理

@工期を遵守するための情報管理技術の継承

(理由)公共工事では、住民の早期合意による工期遵守が欠かせない。それには、事業の公共性と住民利益とが住民、行政の双方に受容されなければならない。住民の受容は時代の流れや価値観で決まること、情報伝達技術は進歩が著しいことなどから、ベテラン技術者が蓄積した技術では、新しい変化や情報に対応できず長期的な教育訓練で技術伝承すべきである。

A実施すべき対応

住民、行政の双方が、公共性と住民利益を受容するには、情報の公開と共有によって行うべきである。その際、情報伝達技術の進歩を活用する必要がある。

公共性の受容は、公共工事の必要性や費用対効果を分かりやすい表現で公開し、正負の効用が比較できるようにする。情報伝達は文書や電子情報など住民がアクセスしやすい媒体とし、コミュニケーションする。

住民利益の受容では、費用限度を明確にした上で住民要望に、「ワンディレスポンス」のように迅速に回答して、住民の信頼を得るべきである。これらの交渉結果は文書やインターネットで開示し、共有化する。

こうした公益性と住民利益に関する情報収集、処理、伝達の技術は、今後技術進歩が予想されるため、教育訓練計画を立て、講習会等で技術伝承する。

(3)-2社会環境管理

@工期を遵守するための社会環境管理技術の伝承

 (理由) 工期を遵守するには、環境負荷低減を行い住民と早期合意をすべきである。その際、時代の要請に応じた環境管理も果たすべきである。環境法制度や環境対策技術は、日々新たなものが生み出されており、ベテラン技術者が蓄積した技術だけでは、新しい制度や技術の変化に対応できず、長期的な教育訓練で技術伝承すべきである。

A実施すべき対応

住民と早期合意できる環境負荷低減対策では、工事公害を低減すべきである。例えば、工事に伴う振動、騒音、大気汚染等による生活環境の悪化に対しては、要因の特定や環境基準を明らかにし、新技術・工法による公害対策のリスクコミュニケーション、事業着手後における観測の結果公開で住民の理解を得させる。

時代要に応じた環境管理では、公共工事が持続的な開発となるよう法制度の遵守のほか、自発的な基準に基づいた環境負荷低減をすべきである。例えば、環境アセスメントによる環境保全対策、建設物廃材の再利用など3Rの推進、環境負荷の少ない建設機械や資材の選定である。又、こうした環境管理の経済効果は、環境会計を用いて貨幣単位で評価し住民理解を得る。これらの技術は、日々新たな技術が開発されており、教育訓練計画を立て、講習会等で技術伝承する。

 

 (3)-3人的資源管理

@円滑な公共工事ができる若手技術者の育成

(理由)円滑な公共工事には、若手技術者の最適活用と継続的な能力開発が必要である。しかし、ベテラン技術者は、今後、5年間で約2割が減少するため、中長期的な視野に立って技術伝承しなければならない。

A実施すべき対応

若手技術者の最適活用では、技術者不足に対する人材採用方針を立て、適切な職員配置により若手技術者の達成意欲を引き出すべきである。

人材採用方針では、中長期の採用計画を立て、正規職員の採用だけでなく、ベテラン技術者の再雇用や嘱託など非正規職員の活用を図る。職員配置では本庁や現場、道路や河川の各部門など、様々な技術が経験できるジョブローテーションを行うほか、達成意欲では実績や資格取得で昇任・昇格させるなど、個人の努力を人事評価することでインセンティブを与える。

継続的能力開発では、OJTのほか中長期の教育訓練計画に基づいて専門研修等を行うべきである。

OJTでは、設計から完了検査まで実務経験できるキャリアパス制度を行う。また、技術のデータベース化やマニュアル化で専門研修やe―ラーニングを行う。その際、非正規職員も就業形態に関わらず能力開発される仕組みを構築することが重要である。以上



技術士合格への道研究所 рO3−6273−8523 東京都中央区日本橋浜町1丁目10番8号 502