技術士試験 確実に合格できる業績とは

この筆記試験必勝法は、過去に発行されたメールマガジン技術士合格への道 を転載したものです。

 

技術士試験の合格に必要な経験(業績)とは何か その1

―自分が中心となって行った業務である―

 

  技術士試験に合格するために最も必要なこと、それは何と言っても業績が豊なことでです。他の試験では知識を要求されるのに対して、技術士試験では、業務で体験したことについて業績の数やその専門性の高さが問われます。では、その業務としてふさわしい条件とは何か。条件として次の4つがあげられます。

自分が中心となって行った業務である。

結果として成功したといえる。

それを行う過程で高い技術力を発揮している。

経済的利益があった。

 

l        自分が中心となって行った業務である

  試験では個人の技量を計られるため、自分が主体的に業務に取り組み遂行した業務であることが必要です。論文T-1に「立場は?、協力者はいたか」等の設問があるのはこのことを確認するためです。具体的には、調査結果等から自分である問題に気づき、対策の必要性を説き、方策を提案、その方策の導入を推進するため比較検討を行い、対策を実施し最終的に成功に導くといったことである。これらを自分の責任において行ったといえなければならなりません。以下にその3つのポイントを述べます。

l        自分が主担当者であるか

  技術士試験とは、組織の機能を対象とするのではなく、個人の能力を試す試験です。ですからあなた自信がどうしたかが大事なのです。もし、ある業績が合議制で決定され自分で特に提案したわけではないとしたら、その業務は答案の業績としては不適当です。自分自身が主担当者であったということが必要です。極端なことをいうとこの試験はコンサルタントになる試験なのですから、自分で全責任を負ってある決定をしたといえなければなりません。

l        指導的立場にあるか

  このことは前述の業務の主役であったということの裏返しとなります。つまりあなたの業務が、仕事の一部を発注者にいわれるままに下請けとしやったということなら、それは技術士にふさわしい業績とは言えません。自分で提案し、主役となって行うには、必然的に指導的立場にならざるを得ないのです。具体的にはあなたが計画立案者で、現場担当者らを指導してプロジェクトを改善したとか、ある企画をあなたが発注者となり推進し、下請けを指導して研究の結果何かを開発したというような業務です。

l        プロジェクトを完成へ導く道筋を自分で見通しているか。

 技術士としてふさわしい業務の条件として、目標を必ず達成していなければなりませんが、そのスタートの段階において、まずは業務を完成へ導く道筋を自分で見通していることが必要です。具体的には目標,業務の大まかな推進手順,必要な資源を検討し,そこに存在する問題点を明確に把握し,対策を考えているといったことになります。プロジェクトの成功が、成り行き的にそうなったとか、はじめからうまく行くことが明白な特に問題もない業務であったとか、あるいは協力者の尽力によって乗り切ったとかいう場合はやはり答案の業務としては不適当です。

 

合格に必要な経験(業績)とは何か その2

―結果として成功している―

  業績の条件として、最後には十分な成果を上げているか、あるいは不幸にしてうまく行かなかった場合にも、対策により総合的には成功の評価を受けていることが必要です。技術士の業務とは技術的に困難なプロジェクトにおいて、与えられた価格、納期の範囲で、最終的に要求される仕様を得ることであり、当初から成果を期待できにくいといえます。しかし、人、物、金、情報など、打つべき手を打ってリスクを最小限にすることでしだいに成功に近づいていくものです。また、もし途中で予測し得ない問題が発生した場合にも改善案を出すなどして対処にも同様な行いが必要です。以下にポイントを詳述します。

プロジェクトを完成へ導く道筋をはじめから自分で見通している。

  結果として成功するための基本は、最初から成功の道筋をつけてやることです。その道筋が見えているということは確実に成功する第一歩といえます。例えば、建物の省エネルギーの課題の場合、通常、照明、空調、コンセント、エレベーターなどの項目ごとに比率が決まっており、それぞれに対策することで、全体の省エネ効果が予測できます。

 

途中で起った問題に答えて、結果を良いほうに導いている

  最初から成功のプロセスをとったとしても、たいてい途中で問題が生じます。その際、結果としてよい方向に状況を変化させることも、成功の一つといえます。先の省エネの課題では、たとえばビルのOA化が進むと冷房能力が不足しがちとなりますが、中間期には外気量を増やすなどの方法でわずかなエネルギーで冷房能力の不足をカバーできます。

 

結果の善し悪しとは別に、不確定段階でのリスクを低減している。

  プロジェクトを取り巻く状況の変化により、当初の成果が得られなくなる場合があります。このような場合にも、あらかじめリスクを予測し、リスクの大きさと頻度に応じた対策をしておく、すなわちリスクマネジメントも間接的な成功といえます。先の省エネの課題では、たとえばビルがテナントビルなら、建設初期に稼働率(入居率)が低い場合が予想できます。そのような場合を見越して、空調機や熱源機を分割しておくことは低負荷時のロスというリスクを低減させます。

 

プロジェクトの課題が、困難であり、技術士以外では失敗する危険性が大か、技術士以外では達成出来ないことができる。

  普通の人が取り組んだ場合、どうやって成功に導いたらわからないような複雑な課題に対して、ある根拠から最適な対策を割り出し、途中で失敗すること無く目標とする成果を得ることも成功です。

  前項同様にビルの省エネの課題で考えます。たとえば、最も経済性の高いシステムを計画するため、夜間電力を用いた蓄熱空調とガス空調とを比較した場合、どちらが有利かという問題は難解です。この答えとしてある一定規模以上の建物では、両者を取りいれた方法が最も経済的となりますが、その設計は容易ではありません。こうした課題に対して、過去の事例より類推したり、シミュレーションで運転状況を予測し、障害となる事項を排除しながら機器の最適容量を見出せたとしたら、それは大きな成功といえます。

(メールマガジン技術士合格への道 第9回 1999.04.29より転載)

 

合格に必要な経験(業績)とは何か その3

―高い技術力を発揮している−

 技術士は技術者であることから高いレベルの固有技術を持っていなければなりません。普通の技術者のレベルを卓越していることを証明する業績ですから、遂行する過程で特に高い技術力を発揮していることが必須です。もし、そんな経験が思い当たらないとしたら、それは受験資格が危うくなりますので、まずこの点が受験資格獲得のスタートとなると認識してください。高い技術力を発揮していることを示すには次の条件が必要と考えます。

業務を支える基礎的な技術知識を理解している

 高い技術力を要する業務は、その底辺にある広範な基礎的事項に支えられており、まず基礎的な技術知識を理解していることが必要です。技術が受け売りではなく、オリジナルの開発成果であるを示す意味もあります。このためには、応用した基礎的原理について、数式や法則を明示すると良いでしょう。

 このことを建物の省エネルギーで示してみます。空調の送風機の動力は風量と圧力の積に比例し、圧力は、風量の2乗に比例します。従って動力は風量の3乗に比例し、仮に動力を1割低減する場合、目標とする風量は−3.4%です。実際にはファンやモーターの効率の変化により、こう単純にはいかないかもしれません。また、これだけでは高度な技術とは言えませんが、このような基礎的な技術知識を基にした着実なプロセスを示すことが、高い技術力を表現する第一歩です。

専門知識のレベルが研究開発なしでは得られない程度の高さである

 技術を極めていくと、一般的なハンドブックなどから得られる一般的専門知識のレベルをやがては超えてしまいます。すると、どこにも前例がなく、お手本を見ながらの設計ができにくくなり、必然的に独自の研究を行うことになります。そして研究により、従来の一般的技術水準より高いものに到達するわけです。これらのことから逆に考えて、合格に十分な技術レベル水準とは、一般的に文献などで得られるものではなく、研究開発の結果初めて得られる程度の高いレベルのものといえます。ただし、研究と言っても基礎研究だけでなく、事前の予備試行までもが含まれる広範囲のことと柔軟に考えてください。

 必要な専門知識のレベルがどの程度かを建物の省エネルギーを用いて例示します。省エネの定番である全熱交換器は「ロスナイ」などの商品名で知られています。この全熱交換器の夏期最高気温時の省エネ効果は、教科書にもあり、温度だけでは70%くらいと予測されます。これは常識です。しかし、冬でも冷房が必要なコンピュータールームで、冬期に全熱交換器を使用すると逆にエネルギーロスとなることはあまり知られていません。また、全熱交換器を通す際の抵抗により動力のロスも生じます。しかし、これだけではまだ研究的レベルとはいえません。更に掘り下げていき、例えば年間(24時間×365日)の気象データを加味して、動力のロスを差し引いて、なおかつ省エネ効果が得られる時間が何時間あるかを検討したとすれば、十分研究的レベルといえると思います。

ただし、こうした省エネ効果について年間を通した検討は、実際の研究レベルでは通常行われていることです。この検討をさらに推し進めて、建物の用途が違った場合の効果を評価し、それらを一般化できたとしたら、相当なレベルに到達します。それだけで十分合格に値する業績と言えるでしょう。このようにレベルを高める手法として「一般化」することが重要です。

 

技術の応用範囲が通常業務の範囲を超えている

 技術的課題として通常業務の範囲内にある場合は、実施頻度が高いためある程度結果が類推できるため、だれも失敗はしません。しかし、実施の規模が桁違いに大きいとか、特殊な用途である場合には正確な予測は困難です。このように技術の応用範囲が通常業務の範囲を超えている場合にも適応できると言うことは、その技術を網羅的に理解しているということであり、その結果得られる業績は技術士にふさわしいものと言えるでしょう。

  必要とされる技術の応用範囲について、もう一度全熱交換器をもとに例示します。全熱交換器は外気取り入れと排気の間で熱交換し、その効率は、家庭用の装置であればカタログに表示されています。では、風量が1万倍で、使用場所も日本より暑い砂漠の真ん中、しかも標高2000mの高地だとしたらどうでしょうか。この場合、熱交換はするが湿度の交換はしないような機構を採用することとなり、水噴霧により排気の温度を下げてから熱交換するかもしれません。この結果がどうであるかは、簡単には予測できません。室内外の温度、湿度からエンタルピーを考慮して検討しなければならず、コンピューター解析が必要です。動力もばかでかいものになり、その一部は熱となります。もしこの結果、解析値と実測値がある程度の精度で一致したとしたら、この技術は地球上のどこでも使える技術となり、とても有意義なことといえます。

 

 このように、技術の応用範囲が通常業務の範囲を超えていることは、技術の適用範囲拡張の見地からも意義が大きく、その過程に高い技術力の介在なしにはありえません。従ってそうゆう業績は間違いなく技術士にふさわしい業績といえるでしょう。

(メールマガジン技術士合格への道 第10回 1999.05.12より転載)

 

 

合格に必要な経験(業績)とは何か その4

― 経済的に評価されている―

 

 技術士は顧客の要求に応えて業務を行うため、その業績は経済的評価を得たものでなくてはなりません。すなわち経済社会における存在理由が主張できなればなりません。この要件として次の4つが上げられます。

l    経済効果が期待できる(効果がわかる)

l    投資対効果を考慮した最善の方法である

l    社会や消費者、技術の動向に沿った業務

l    コストや品質、納期だけでなく安全と環境にも配慮している。

 

● 経済効果が期待できる(効果がわかる)

 技術士の業務紹介においては、大多数の場合、技術導入により、コストダウンが図れて従来のやり方より安く出来るようになった例をあげることになります。この場合、改善前後の業務が金額で比較できるため、成果を金額で表せます。ここまでは容易です。しかし、ただ差額を示すだけで経済効果があると理解できるでしょうか。ノ-です。経済効果が理解できるためには、それが一般的に成り立つことだと理解できなければなりません。そのためには、ある技術を一般的な例に適用した場合、どのくらい金額で有利か(期待金額)などという具合に示せす必要があります。このことを次の例で説明します。

 前号にならって再び全熱交換器の例です。この装置は、ロスナイなどの商品名で知られる、排気空気から熱を回収して新しく取りいれた外気に移すことによって空調エネルギ-を節約するものですが、それ自体が金額的価値を生み出すことはありません。そこで、省エネ額で示します。結論的にいうと、24時間空調の場合、毎時処理空気1立方メ-トルに対して年間150円程度の節約となります。このように1立方メ-トル当たりの金額で示しておくと、他のケ-スでも経済性がすぐわかり、採否の判断が出来ます。経済性を示すには、このように、採用によってもたらされる期待金額がすぐに分かるように、標準的な条件のもとでの金額の指標(単価)を示すのが1つの方法です。

 このほかに、全熱交換器をつけることにより、通過抵抗が増加し動力が10W/立方メ-トル程度増加したりとか、夏冬の最大負荷が小さくなるので冷凍機やボイラが小さく出来るという効果もあり、イニシャル+ランニングすなわちLCCで示すのがより総合的です。

 

● 投資対効果を考慮した最善の方法である

 先の例では節約金額によって経済的効果を表わしましたが、このほかに、納期が早いとか、品質がよいということも経済効果を生みます。ただし、納期や品質といった要素を金額と同等に比較することはできないため、例えば納期短縮によって節約された費用、サービス価値の高まりを数値化して金額に換算します。こうして数値化された経済効果に先に求めた節約金額を加えるとさらに総合的な経済的評価となるでしょう。

 

●社会や消費者、技術の動向に沿った業務

 経済的効果とは、今のニ-ズからみて価値があると人々が認めるために生じるものですが、将来の必要性が期待されているかどうかも大切です。例えば、ITS(高度道路交通情報システム)という、自動車の制御や道路、目的地に関する情報などを統合化する技術がありますが、現在の市場規模はまだ大きいとは言えません。しかし、こうした研究を行っているトヨタに対する市場の評価は、多大なるものがあり、トヨタは現在の自動車製造業もさることながら、将来のキャッシュフロ-に対する期待感から投資家より潤沢な資金を得ています。この例は、消費者のニ-ズや技術の動向に沿った事業がいかに経済的評価を受けるかを示す一例です。

 

● コストや品質、納期だけでなく安全と環境にも配慮している。

 以上の他に、現在では安全や環境も経済性の一部と考えねばなりません。先のトヨタに対して日産では自動車の衝突試験での評価を新聞広告に掲載しましたが、これは読者が車の価格や燃費と同じように安全性に重要性を認め始めているからにほかなりません。ただし、安全性を経済評価するには、リスクアセスメントのプロセスによって、例えば、事故による損害×事故の確率×エアバッグによる障害の緩和割合などの数式によって数値化する必要があります。

 一方、環境配慮について経済的価値があることは、近年常識となっており、環境経営とか環境会計という概念が生まれています。環境会計とは、環境対策に要した費用を「経費」とし、それによって節約できた費用及び汚染回避によるリスク低減などを「効果」として、環境対策の費用対効果をバランスシ-ト化するものです。従来、廃棄物、排水、排気のなどの処理業務、汚染観測、汚染修復業務などは、経済的に評価が得られませんでした。しかし、環境会計を導入すると、こうした業務も経済的に利益があると示せます。回避できた汚染修復費や汚染リスク低減による保険料の低減などを経費削減効果として計上するためです。

(メールマガジン技術士合格への道 第11回 1999.06.17より転載)

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